妄想小説 短編 2
□Give you my heart
1ページ/15ページ
香は走っていた。
魔界の闇の中を必死で。
逃げなければ殺される。
もう気配を消す余裕もなく、ただひたすら逃げていた。
力が全ての魔界では、力の無いものは殺される。
そこに同情や哀れみなどは存在しない。
香が女だろうが、手負いだろうが関係なく、捕まれば金目の物を奪われ、そしてあっけなく殺される。
それが当然の世界だから、香は必死で逃げていた。
「逃げ足はなかなか」
香はその声に、心臓を捕まれたような冷たい感覚に包まれた。
急いで脚を止め、すぐに反対の方向へ駆け出す。
「おっと、残念」
その先には追っての仲間が立ちはだかる。
香は脚を止めた。
息があがる。
身体は暑いはずなのに、氷が背中に伝うような感じ。
殺される。
そう思った。