妄想小説 長編 2

□暗黒武術会への招待
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目を開けると、見慣れた天井。
いつもの朝のはずだったが、自分の手の痛みが昨日の光景を思い出させる。

倒れている人。
流れている血の色。
うめき声。
妖怪の死体。
まとわりつく血の臭い。
殴った感触。
手の痛み。
服についた血の色。


フラッシュバックのように脳裏に現れては消え、また現れた。


今はそれが、素直に怖い。
だけど昨日は。

それが、とても心地よく感じて…。


そんなふうに感じた自分が怖かった。



「…なんだったんだろう」

そう呟いて、微かに震える手を握った。


ふと、指に巻かれた絆創膏に気付く。


蔵馬。


混乱する私を宥め、シャツを洗いすぎて擦りきれた私の指に絆創膏を巻いてくれた。


詳しいことは聞かなかった。

ただ、大丈夫だと。
そう言ってそばに居てくれた。


私は、そんなふうに優しくしてもらえるような人間なのだろうか。
垂金を殴ったあとに感じた爽快感。
死ねば良かったのにと思った、あの感覚。

私は、きっと。
垂金と。

同類。




その時、部屋のドアをノックされた。

「香、調子はどう?」

「ママ」

ママの顔を見て、絆創膏だらけの手を布団に隠した。


「昨日は驚いた。まさかあんたが男の子に送ってもらうなんてね」


予想外のママの言葉に、返事をするのを忘れてしまった。

「あの子かっこいいわね。この前も来てくれたもんね。
また連れて来てよ」

そう言いながら、ママは私の手に冷たい水の入ったコップを渡した。
少し汗をかいたコップは、手の痛みを少し和らげてくれた。


「今日は学校休むって連絡しといたから、ゆっくり休みなさいね」

ママはそう言って、部屋を出ていった。


手の中で氷がカランと音を立てた。


なんで、ママは何も聞かないんだろう。
もしかして、蔵馬が上手く誤魔化してくれたんだろうか。

一口水を流し込むと、喉がひどく渇いていたことに気が付く。


私は。

香。
河嶋  香。


大丈夫。
きっと、大丈夫。


冷たい水と一緒に、その言葉を身体に染み込ませた。
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