妄想小説 長編 2

□Dr.イチガキの罠
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一回戦が終わり、ホテルに戻る途中。


「おい、桑原」

幽助は桑原くんとなにかこそこそ話している。

「蔵馬、なんかあったんか?
すげー機嫌悪くないか?」

さっきから一言も話さない蔵馬に、幽助なりに違和感を感じていたらしい。

桑原くんは蔵馬の顔をちらっと見たあと、私の顔を見た。

「なに?」

「…ちょっと」

そう言って桑原くんに呼び出されてしまった。

桑原くんは幽助に、先に戻っててと合図して、皆とは別方向に歩き始めた。

皆の姿が見えなくなった頃、桑原くんは頭に手を当ててため息をついた。


「お前なー、まず皆に言うことがあんだろーが」

皆に?
んー…?


「あ、アイスごめんね!!」

「違うっつーの!!」

え?違った?

桑原くんは頭を振りながらため息をついた。
さっきより長いため息。

「俺達だってな、お前が拐われて心配してたんだぜ?
なのにいきなり現れて馬鹿だの冷血だの言われりゃ、いい気しねえだろ」


ほー…。


感心して頷き、桑原くんを見つめた。


「な、なんだよ」


「いや。うん。そうだよね。
…心配…かけたよね…。
ごめんね。ありがとう」


そう言って笑うと、桑原くんは少しだけ顔を赤くさせた。

「そーだよね。うん。
私自分のことばっかで…。蔵馬が、もういいって言ったのがショックで…」

「それも!」

「へ?」

「それだって勘違いだろ。
蔵馬のことだ。間違いなく助けられると思っての作戦だろ。
あいつが一番心配してたんだからな」


蔵馬が?
一番心配してた?


「うっそだあ〜…」


「嘘かどうかはわかんねえけど、とにかくあいつはすげー心配してたんだから、まずあいつに謝れ!!
んでちゃんと何があったか説明しろ」

桑原くんは年下のくせに、お兄ちゃんのように私を叱っている。


「ったく。蔵馬が機嫌わりいと全体的にぴりぴりすっからよ。
頼むぜ?」

そう言って、桑原くんは私ににっと笑って見せた。

暖かい人だな。

そう思った。


「ありがとね、桑原くん」

「よせよ、もういいよ」

そう言いながら、ホテルの方に足を進めた。


そうか。
皆、心配してくれたんだ。


そっか。
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