妄想小説 長編 2

□覚醒のきっかけ
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リングに上がった蔵馬の相手は、さっきの陣とかいう奴ではなく、画魔とかいう奴だった。

開始の合図とともに、画魔は自分の顔に筆を走らせた。
徐々に増えていく妖気。

「戦闘の粧!」

どうやら化粧によって妖力アップさせたらしい。
そのまま蔵馬に向かっていく画魔のスピードはそこそこ早い。

蔵馬は攻撃をなんなくかわしているが、なかなか反撃まではいかない。


「さっさと鞭でやっちゃえばいいのに」

爪を噛みながら呟く。

さっさと反撃出来ないのもわかっている。
あれだけ早いと、武器化するタイミングが作れないんだろう。
わかっている。

けど、やっぱり苛々してしまう。
じっと見てると落ち着かないから、桑原くんの怪我の様子を見に行こう。
…治療の仕方とか…勉強しとけば良かった…。

「桑原くん、大丈夫?」

声かけにも返事が出来ないくらい、重症だ。
どうしよう。
やっぱり心霊治療術くらい勉強しとけば良かった…。
霊気送るくらいしかできない。
けど、あんまり堂々とやって難癖つけられたら困るから。

こっそり、少しずつ霊気を送ってみた。


その時、画魔からの攻撃に蔵馬がバランスを崩してしまった。

「今だ!」

画魔は蔵馬の隙を逃さなかった。

蔵馬の足に何か模様が描かれただけだったが、蔵馬の動きがにぶくなった。
足が重いような動き。

「あんた、もう逃げられないぜ」

画魔は動きの鈍った蔵馬に、残りの手足に素早く同じ模様を描いて笑った。


「獄錠の粧!
70キロのおもりをつけているようなものだ。
両手足で280キロ!成人男性四人抱えて戦うようなもの!
もう自慢の武器は使えねえ!
一気に決めてやる!」

画魔は棒立ちになっている蔵馬に向かってとどめをさしに行った。


「蔵馬!!」

私がそう叫んだとき、一瞬蔵馬が笑った様に見えた。
心配するな。
そう言っているようだった。

それは勘違いなんかではなく、蔵馬の髪が揺れた瞬間。
画魔の体が切り刻まれていた。


「悪いな。使えるのは手足だけじゃない」


蔵馬の髪に薔薇の鞭が巻き付いているのが見えた。

髪で…?


「…すげー…」

だから髪伸ばしてんのかな。
まさか髪を使うなんて。


「今のままでも君よりは素早い。
俺に使っている呪縛を解いて治癒に妖気をあてないと危険だ。
君は死ぬには惜しい使い手だ」

蔵馬の言葉に、画魔は笑った。

「光栄だ!」

そう叫びながら蔵馬に向かって拳を繰り出す。
手が千切れながらも、腕を振り続ける画魔は、蔵馬が止めても止まらなかった。

徐々に力尽きていく画魔は、リングの中央でばったりと倒れこんだ。


「もう立てないだろう」

蔵馬が目を閉じた。


もう助からない画魔は、倒れながらも笑っている。

「くくく…封じた…」

「なに?」

「あんた俺の血には無頓着だったな。
化粧水の正体は俺の血だ。
お前の妖気を封じた。
俺が死んでもしばらく妖気は消えねえ。
次の勝利のために犠牲になる。それが忍よ」


そう言って画魔は息絶えた。


勝った。
勝ったけど。


「妖気を封じられちゃったら…」


蔵馬の表情も暗い。
きっとまずい状況なんだろう。

蔵馬…。


そんなことはお構い無しに、次の対戦相手がリングに上がってきた。
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