妄想小説 長編 2

□侵食
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シャワーからあがると、ぼたんだけが待っていた。
ぼたんはまだ目が赤かったけど、笑って冷たい水を渡してくれた。
それを受け取り一気に飲み干すと、全身に染み込むような気がした。

「ありがと」

そう言って笑うと、ぼたんもにっこりと笑ってくれた。

ぼたんは、笑っててくれないと。

そう思った。


「そういえば、試合どうなったかな」

「まだやってるんじゃないかな?TV見てみよっか」

ぼたんは部屋のTVのスイッチを押した。

画面にはリングのうえの幽助が猫耳の子に何か抗議しているようだった。
また何かあったのかな。
音量をあげると、どうやら幽助は10カウントで引き分けだとかなんとか。


「…嘘でしょ?本当汚い連中」

そうは言ったものの、もしこれが通ったら負け。
もう全部巻き込んで戦うしかないのか?

そう思ったとき、突然画面に桑原くんの姿が映った。


「ちょ…!桑原くん!?
あーた寝てなきゃダメだって!」

画面に向かって言うけど、もちろん聞こえるわけもなく。
どうやら、桑原くんが戦うことになっているらしい。


「…こんなことしてる場合じゃない!戻んないと!」

「あ、香!」

まだ濡れてる髪をひとつに結んで、ぼたんを引っ張って部屋を出た。
行ったところで、私にはなんにも出来ないけど。
それでも、こんなところでぼけっとしてる場合じゃない!





ぼたんを引っ張りながら、会場のドアを開ける。

「ちょ…、香…、早いって…」

ぜえぜえと息が上がってるぼたんに、ちっちゃくゴメンと言ってからリングの方を見ると。


「雪菜さんっ!!来てくれたんすかっ!!」


桑原くんのすっごく元気な声が響いていた。

「雪菜ちゃん?なんで?」

「な、なんか…お兄さんを探すのに…国を…ぜぇ…出てきたって…ぜぇ……」

「ぼたん、大丈夫?
飛影を探しに来たってこと?」

ぼたんはうんうんと頷いている。

飛影は、雪菜ちゃんには言うつもりないって言ってたからなあ。
どうするんだろ。

救護テントの飛影を見ると、なんだかとってと驚いている様子。
兄ですって言っちゃえばいいのに。

桑原くんはあのひどい怪我が嘘のように、生き生きと雪菜ちゃんと話している。


…まあ、勝ったみたいだし。

「良かった…のかな」


ちょっと呆れたように乾いた笑いをぼたんと交わした。
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