妄想小説・女子編

□candle
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高校卒業して、大学生活が始まるまでの3週間。
俺は一人で日本一周する予定だった。
行ってくると元気に家を出たのが三時間前。
まさか、乗ったバスが事故に巻き込まれるなんて。

一寸先は闇。

昔の人は上手いこと言ったもんだ。

トンネルに入った途端、バスは何かにぶつかって大きな振動がおきた。
そして、すぐに後ろから大きなトラックがぶつかってきたのだ。

俺の前の席の人は、2回目の衝撃で前に吹っ飛んでいってしまった。
俺は1回目の衝撃で足が挟まってしまって動けずにいる。
たぶん、そのおかげで助かったんだろう。

バスの中はチカチカと光る壊れた照明と、トンネルのオレンジの光で照らされている。
はっきりとは見えないが、俺の右手は真っ赤に染まっていた。
呻き声が聞こえる。
小さな泣き声が聞こえた。
あれはたぶん、反対側の座席にいた五歳くらいの女の子。
お母さんと単身赴任のお父さんに会いに行く途中だと言っていた。
確か。


「はなちゃん」

泣き声が止まった。

「…はなちゃん…だよね?…大丈夫?」

「ママが…ママが…」

「うん…はなちゃんは?痛いとこない?」

「…お腹がいたい…」

「動ける?」

「…うごけない…」

「きっともうすぐ助けに来てくれるからね、頑張って」

「…うん…」

まだすすり泣きが聞こえる。
それははなちゃんだけではなくて、周りのあちこちから聞こえる。
呻き声と泣き声が。

あとどのくらいこうしていればいいんだろう。

気がおかしくなりそうだ。

早く、誰か。

助けて。



「よく頑張ったね」


遠くなりそうな意識の中で、優しい声が聞こえた。
目を開けると、反対側の座席だった場所から光が射していた。


「お母さんと一緒だから大丈夫だよ」


その声はとても優しくて、暖かくて。
痛みも苦しみも和らいでいくようなそんな気がした。

そして、光が少し上に動くと、視界に女の子がうつった。

あれは。


「…はなちゃん…?」

事故が起きる前の、可愛い水色のワンピースを着たはなちゃんの姿。
はなちゃんの手を繋いでいるのは、桜の色の着物を着た。
キレイな…。


「君はまだだよ」


その人は、俺を見てそう言った。


覚えているのは、そこまで。



目を開けると、涙でぐしゃぐしゃの母さんがいた。

「大地!良かった!良かった!気がついたんだね!」

「…か…さん…?」

白い天井と母さんの隣にいる看護師を見て、ここが病院だということはわかった。
自分が助けられたことも。

助けてくれたのは誰?
あの女の人?

はなちゃんは、どうなった?



また深い眠りに落ちていった。
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