妄想小説 長編(完結)

□幽助の目覚め
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幽助が、私と子どもを助けて代わりに死んでしまった。

通夜の間中、ずっと考えてた。

私が死ねば良かったと。


生まれてから1日と離れたことがなかったのに。
片割れがいないと、生きた心地がしない。


ママも螢子もあれからずっと泣いている。
私も泣いていた。

ママは幽助から離れようとしないけど、私は目を逸らしたかった。

通夜が終わると、夜の街に向かった。

いつも幽助と一緒に彷徨いていた場所。
まあ、私が勝手に後を付いてったようなもんだったけど。

ケンカだって、幽助ほどじゃないけど、大抵の奴には勝てる。
そんな私に幽助は、女なんだからケンカすんなってうるさかった。



そんな事を思い出していたら、後ろから声がかかる。

「よぉ、香じゃねえか」

馴れ馴れしく肩を叩かれる。


「誰あんた」

「おい、随分な口じゃねえか。先週お前らに世話になったもんだよ。
あいつ死んだんだってな。あいつがいなきゃお前も終わりだなっ」


そう言うと、男は拳を振りかぶった。

「…舐めてんじゃねえぞ」

そう呟き、男の大振りパンチをかわし、腹に蹴りを入れた。
腹に入れたつもりだったが、まあ別の所に当たったらしい。
真っ青な顔して倒れやがった。



「幽助がいなくたって、私は誰にも負けないよ」

もう聞こえてないだろうが、そう言ってまた歩き始めた。



私はケンカは強いけど、幽助は私とはしなかったな。
私は殴ったりもしたけど、一度も殴り返したことは無かった。


なんか、そう思い出すとムカムカしてきた。

最後までか弱い妹扱いして、代わりに死ぬなんて。

最後に一発殴ってやる。



そう決めて、家に戻った。




家に戻ると、ママと螢子が玄関の前で泣いている。

「どうしたんだよ?」

聞いても、幽助が…としか言わない。
まだ泣いてるのかよ。

また不愉快な気分になる。

一発じゃ納まらない。

そう思って部屋に入ると、棺桶が開いている。

ママが開けたのか?

近づいて、幽助の胸ぐらを掴む。


その時、幽助の体温を感じた。


「え?」


よく見ると、顔に赤みがさして、体が温かい。

おそるおそる胸に触れると、確かに鼓動を感じた。



―生きている。



幽助はまだ生きている。
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