妄想小説 長編(完結)

□束の間の休息
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「蔵馬、ちょっとこっち来て」


二回戦の後、蔵馬をベッドに呼んだ。
和ちゃんは雪菜ちゃんに傷を治してもらってるし、幽助は螢子と一緒に居たし。
飛影と覆面はどっかいっちゃったってことで、ホテルに二人きりになっていた。


「いきなりベッドに誘うなんて大胆ですね」


蔵馬は笑っているが、私は笑わなかった。
照れないようにするので精一杯だから。
…いい加減慣れろよな。
自分に腹がたつ。



「…ケガ。治すから」


狼狽えないようにすると、ぶっきらぼうになる。
…本当かわいくないよなあ…。
あたしだって、雪菜ちゃんみたいにかわいかったりしたらさ。
もっと違ったんだろうけどさ…。



「…大丈夫ですか?
いくら霊力が戻ってきたとは言え、まだあまり休んでないでしょう?」



蔵馬の言葉には答えずに、蔵馬の傷に手を当てた。


「…ありがとう。助かるよ」

蔵馬はそう言って微笑んだ。


ダメ。
赤くなるな。


気合を入れ直す。



「香は誰に習ったの?」



気合入れてる途中に蔵馬が話しかける。


「あ…最初はぼたんに基礎から教えてもらった…。
んで盛霖ってゆうじーさんとこで本漁って読んだ」



「…読んだだけ?」


蔵馬は目を丸くした。


「…うん。なんか細々書いててわかりやすかったし、気の流れとか掴むの得意みたいだよ。
じーさんもそれだけは褒めてくれたし…」



私がそう言うと、蔵馬は笑った。


「簡単に言うなあ。香の技は高等技術だよ。
…センスがあるんだな、うらやましいよ」




「あたしのがうらやましいよ。
あたしはどうしたって攻撃力が低いもん。
皆を見てると、多少…落ち込むよ」



つい本音を洩らしてしまう。
ずっと思っていた。
皆に対する置いてかれそうな不安感と、あの力への嫉妬心。

本に書いてあることが出来るより、敵を一撃で吹っ飛ばす力が欲しい。



ふと蔵馬の手が頭に乗っかった。

「香は強くなるよ。
今よりももっとね」


そう言ってあの顔で微笑んだ。
でも、今は照れたりしなかった。
何故か、素直に受け入れられた。


「…ありがと…」


そう言うと、蔵馬が見つめているのに気がついた。

心臓が飛び出るかと思うくらい早く動き出す。

蔵馬が少しだけ近づく。
あたしは動けなくなって、蔵馬から目が逸らせなくなっている。




ゆっくり蔵馬が近づいて、蔵馬の前髪が私の前髪に触れた。








「いやー!疲れたなあっ!!風呂入って寝るかあっ」


急にドアを開けて幽助と和ちゃんが入ってきた。


「…ゆっ!ゆーすけっ…って!ひゃあっ!!!」



慌てて蔵馬から離れるとベッドから勢いよく落ちてしまった…。


「…香、大丈夫?」


蔵馬がベッドの上から覗いた。


「なーにやってんだ?」

「おめーらそういうことすんなら鍵くらいかけとけよなあ」


二人は笑ってそう言って部屋の奥に入っていった。


「ちっ!違う!!ケガ治してただけで!別に変なことなんかしてないっ!!」


二人に怒鳴るも、たぶん真っ赤な顔で言っても説得力がないみたいだ。


「はいはい、あ、桑原。俺先入っていい?」

「ああ、いいよ」


…なんか流されてる…。
くっそー…。




「…まあまあ、香、続きやってくれる?」


蔵馬の言葉に、まだ顔は赤いままだったけど、またベッドに座って蔵馬の治療を再開させた。





「ありがとう、すっかり痛みがとれたよ」


蔵馬はそう言って、にっこりと笑って見せた。
あたしはもう照れる気力もなかった。
治療中なるべく平常心って気合入れすぎて、どっと疲れが出た感じ。


明日試合なくて良かった。


「…あたしもお風呂入って寝る…」



そう言って、フラフラとバスルームへ向かった。
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