妄想小説 長編(完結)

□決勝戦 戸愚呂チーム
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「ばーさんは今日は来ねえのか?
まあ今日で最後だしな」



「やれやれ、めでたいやつだ」


和ちゃんの言葉に飛影が呟く。
…やっぱり和ちゃんは気づいてないんだ。
試合前には言わない方がいいかもしれないし。
幽助が言わないのに私が話すのもどうかと思うし。

結局誰も和ちゃんには教えないままだった。



会場の入り口が開く。

同時に妖怪達の耳をつんざくような罵声が飛び交う。

ふと、戸愚呂チームの後ろに長髪の黒服の男が目に入った。


「…あいつ、垂金のとこで見たヤツ…」


「あいつ戦えんのか?」


私達の会話が聞こえたのか、黒服は笑って言った。



「私は戦わない。一番いい席で観戦するだけだ。
大将の私まで回ってくる可能性は、ゼロだ」



なるほど、自信たっぷりだこと。


戸愚呂コールが鳴り響く中、ギャル姉ちゃんが決勝戦の説明を始めた。
どうやら一対一で三勝先取と決まっているらしい。


「先鋒、前へ!」


ギャル姉ちゃんの言葉に、戸愚呂チームの怪しい男が前に出た。

黒髪長髪。切れ長の目が怪しく光る。
人差し指をこめかみに当てる。

それに反応したのは蔵馬だった。


「俺がいく」



「おい、蔵馬。あの薬飲んだのか?」

和ちゃんが蔵馬に近づき訊ねた。


「ああ、10分くらい前に飲んだ」

「いいっ?」

「いきなり本番で使うほど大胆じゃない。
何度か試している。15分くらいは妖孤でいられる」



蔵馬はそう言うと、相手の男を見た。


「鴉を倒すには十分な時間だ」


蔵馬の真剣な横顔に、ドキッとする。
ときめくとかそんなんじゃなくて、蔵馬の目に冷たい何かを感じた。



リングの中央に二人が立つと、鴉が蔵馬に聞いた。


「…そのままでいいのか?むざむざ殺られにきたわけじゃないんだろう?」



「じきに変わるさ」


蔵馬の手から花びらが舞い散る。


「お前を倒すためなら、なんにでもなってやる」


花びらは蔵馬の周りを舞い、守るように囲んだ。
鴉が少し近づくと、花びらが鴉の頬を傷つけた。


「なかなか可憐だが…脆弱だな」


鴉は花びらを気にすることなく蔵馬に向かっていく。

花びらが鴉に向かっていったとき、突然花びらは全て爆発し消えてしまった。



「なにぃっ!?」


鴉は花びらに触れていない。
蔵馬は鴉の能力を、触れたところに妖気を送り内部爆発を起こしているんだろうと話していた。


…違うの?


鴉は得意気に蔵馬に話しかける。


「俺の力が見えない。それは俺とお前の力の差を表している」



「うあっ!!」


突然蔵馬の腕が爆発した。鴉は触れていない。


「蔵馬!!」



「もう一度聞くぞ。そのままでいいのか?」


おかしい。
10分前に飲んだなら、もう変わってもいいくらいにはなってるのに。


「なんで妖孤にならねーんだ?」

和ちゃんの言葉に私は答えられなかった。
たぶん蔵馬もそう思っているはず。
蔵馬の顔に少し焦りが見えてきた。



「…おしゃべりも飽きた。そろそろ死ぬか?
最後にお前にもみえるように強く具現化してやろう」



鴉の右手に少しずつ何かが浮かび上がる。


「なっ…!!」


「爆弾だ」




「蔵馬ー!!!!」



リングで大きな爆発が起こった。
爆風がこっちまで飛んでくる。
煙と火薬の匂いがたちこめ、リングを煙がおおっている。



「蔵馬!!」



煙が少しずつ晴れると、鴉の手から血が流れているのが見えた。
右手には薔薇が突き刺さっていた。


「際どかった。南野秀一の体なら粉々だった」



煙の中から、銀髪の蔵馬が現れた。



「蔵馬!」

「よっしゃ!間一髪!」



「火薬を司る支配者か。南野秀一じゃまだ歯が立たなかったな。
支配者クラスに会えたのは嬉しいが…。
お前は殺すぞ」



蔵馬は不敵な笑みを浮かべた。


「死ぬのはお前だ。
…まだ…負けた時の言い訳か?」


鴉はそう言うと手をかざしてみせた。


「…おじぎ草という植物を知っているか?」


「園芸には興味はない。いいのか?囲まれたぞ?
絶体絶命というやつだ」


私には鴉の妖気が見えない。
蔵馬にはもう見えてるんだろうけど…。



「それはどうかな?」


蔵馬がそう言った瞬間、リングから何かが大きな音をたてて伸びてきた。
その何かに鴉の爆弾はかきけされた。



「なっ!なにあれ!」


「魔界のおじぎ草は気が荒い」


魔界のおじぎ草?

ああ…言われてみればおじぎ草だ。
でかいけど。


「動くもの、火気をはらむものに襲いかかる。
…どうやらお前を敵と認めたようだ」



おじぎ草が鴉に襲いかかる。
鴉はおじぎ草に向かって爆弾を放つが、おじぎ草はさらに勢いを増して鴉に食らいついた。



おじぎ草は次々と鴉に食いつき、すっかり取り込んでしまった。



「うむ、思ったよりあっけなかったな。
もう2、3分遊んでも良かったか」



蔵馬はそう言って、背を向けた。


…すごい。
圧倒的…。


蔵馬は妖孤になると若干黒い部分が強くなるんだなあなんて思いながら、蔵馬に見とれていた。



「鴉選手、戦闘不能とみなし蔵馬選手の…」


ギャル姉ちゃんが蔵馬の勝利を宣言しようとした瞬間、鴉を飲み込んだおじぎ草が突然爆発した。



「誰が戦闘不能だって?」


おじぎ草から出てきた鴉はマスクが外れている。



「ちゃい!ちゃいです!試合を再開します!」


ギャル姉ちゃんは慌てて訂正をした。

鴉生きてたか…。
マスク外れると、さらにやらしい顔してんな。



鴉を見ると、どんどん髪の色が変わり始めた。


「口から体内に火気物質を集めている。たぶん両手が起爆装置だ。
構えとけ、巻き添えをくうぞ」


飛影の言葉に、身構える。




「くくくく…死ね!!!」



鴉の叫びとともにものすごい爆音と衝撃が襲ってきた。

私達も吹っ飛んだし、観客も結構吹き飛ばされているみたいだった。



「…蔵馬は!?」


体勢を整えて蔵馬の姿を探す。

観客席の崩れた壁の下に、蔵馬の姿を見つけた。



「蔵馬!!」



蔵馬はすでに妖孤ではなく、南野秀一の蔵馬に戻っていた。



「…どうして…?まだ時間はあったはずなのに」


たぶん蔵馬も同じことを考えているんだろう。
表情が暗い。



「お祈りの時間だ。
楽に死ねますように…」



鴉が蔵馬に近づいていく。


「…くっ!…!?」



蔵馬は右手を見た。
もう妖気がほとんどない。
武器化もできない…。



鴉も気づいているのか笑っている。

蔵馬…。



私の心配をよそに蔵馬は鴉に向かって体術で攻撃を始めた。

…蔵馬の体術、初めて見た。



「怪我で呆けたか、近づくのは自殺行為だ」



「妖気が見えなきゃどこにいたって同じだろ」


蔵馬は鴉にそう言うと、胸に向かって手刀をくらわせた。

鴉の左胸から血が流れた。


「…いい手刀だ。といいたいところだが。
シマネキ草の種か。二番煎じは通用せん」


そう言って、シマネキ草の種を小さく爆発させた。



蔵馬が構えていると、突然左足が吹き飛んだ。


「蔵馬!!」



「じわじわいくか」

蔵馬はそれでも立ち上がるが、鴉が手をかざすと腕や腹で爆発がおこった。



「顔はキレイなままで残してやるよ。お前はいつまでも私のそばに置いておきたい」



なに言ってんの、あいつ。
キモいんだけど。



観客の歓声の中、ギャル姉ちゃんが蔵馬のダウンをカウントし始めた。


「10カウントはいらない。死ぬか生きるかだ」



蔵馬!!



「死ね!!」




鴉が叫んだ瞬間。


蔵馬から植物が現れ、鴉の胸に真っ直ぐ向かっていった。
それは鴉の左胸に刺さり、ゆっくりとなにかを吸い上げている。

血を…吸っている?


さっきのシマネキ草!
あれもこのために?


でも、蔵馬にはもう召喚できる妖力は無かったみたいだったのに…。



リングでは二人とも倒れて動かない。



「蔵馬…?蔵馬ー!!」


リングにかけより、蔵馬の名前を叫んだ。
それも観客の歓声にかきけされる。
それでも名前を呼び続けた。





その時、小さく蔵馬の手が動いた。
ゆっくりと目を開けた蔵馬は、ふらふらの足でゆっくりと立ち上がった。




そして、私を見て、にっこりと笑ってみせた。
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