妄想小説 番外編
□ふたりがふたりで
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ある日、幽助は蔵馬の通う高校の校門前で蔵馬を待っていた。
優等生ばかりの高校に、Tシャツにジーンズの男はかなり目立っていた。
「どうしたんだ?こんなとこまで」
蔵馬は部活を早退して校門へと向かっていった。
幽助は右手を挙げて、ようと笑って言った。
「桑原んとこ、見舞い行かねえか?」
幽助は校門に寄りかかり蔵馬にそう言って笑った。
桑原が一週間前扁桃腺の手術をしていて入院をしているということは蔵馬も知っていた。
しかし見舞いには昨日も行ったし、幽助から誘ってくることに何かあるのではないかと蔵馬は思った。
「…何しに行くつもりですか?」
蔵馬は少し呆れたように幽助に訊ねた。
幽助はにっと笑って、行けばわかると言うと、病院へとすたすた向かって歩き始めた。
蔵馬はタメ息をついて、これから桑原くんに起こる何かに同情しながら幽助の後を追った。
病院の近くに来ると、幽助は病院ではなく大きな道路を挟んだ向かいのビルの中に入っていった。
「おもしれーもんが見れるからよ」
幽助は蔵馬が質問する前に言って、蔵馬を黙らせた。
ビルの屋上に出ると、病院の屋上がやや下に見えた。
「…桑原くんじゃないですか」
蔵馬の視界に、Tシャツとジャージ姿の桑原と、もう一人パジャマを着た女の子の姿が入った。
「…隣の子は?」
蔵馬の質問を待っていたかのように幽助は嬉しそうに話始めた。
手術をした次の日から桑原の様子がおかしいと、桑原の姉、静流が幽助に話したことが切っ掛けだった。
静流の話を聞いた幽助がこっそり桑原の行動を追っていくと、毎日決まった時間に屋上に向かっているようだった。
そしてそこで、入院している女の子と仲良くデートしているという事実を掴んだらしい。
「桑原くんにも春が来たんですね。邪魔しない方がいいんじゃないですか?」
蔵馬は遠くに見える桑原の笑顔を見て、素直に微笑ましいと思った。
「あと30分くらいで戻るからよ、からかいに行こうぜー!」
幽助も嬉しそうに笑った。からかう気持ちもあるが、嬉しい気持ちも幽助にはあった。
桑原の良さをわかる女の子が現れたことに、友人としては嬉しいと思っている。
ただ素直に祝福したくないのは、二人の今までの関係からは仕方のないことであり、そしてそれが幽助らしいなと蔵馬は思って静かに笑った。