妄想小説 番外編

□夏空の恋の詩
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久しぶりに晴れたから、つい学校をさぼってしまった。

普段はそんなことしない優等生だけど、何故か今日はサボりたい気分だった。
何故かなんて言ったけど、理由はわかってる。

半年付き合った彼氏にふられたからだ。

あんなに熱心にアプローチしてきたくせに、夏休み中にあっさり浮気しやがった。
しかも責めたとたん、
「自由な恋愛がしたいんだよね〜」
なんてぬかしやがって。



あ。
思い出したら腹たってきた



「ムカつくー!!!!」



そう叫んで、海岸の岩場に腰かけた。
人気がなくて、海の見えるところに行きたくてきたこの場所は、所謂自殺の名所らしい。
学校とは反対方向に一時間歩いてきた。
死にたくて来たわけじゃないけど、暗い気持ちの人は同じ場所が好きなんだろうか。

ごつごつした岩場だけど、私はこの場所が好きだった。
自殺の名所と言っても、ここから少し離れた橋の所が自殺の名所なのだ。
だから、ここは自殺なんかはないし、まああったとしても心霊とか怖くないし。


鞄からペットボトルのお茶を取り出して飲んだ。


え?



お茶を飲む時に視線が上に移動した。
良く晴れた青空に、一瞬視界に入ったのは…。


人?




「もしかして、自殺!?」


自分がいる場所よりも高い位置の崖を見つめる。
あそこから?

うそ!
どうしよう!?




「…だっ!誰かー!!い、今、人が!!」


辺りを見回しながら、大声で叫ぶけど人は誰もいない。


「やだ!どうしよう!」


慌てて海岸の端に行って、下を覗く。
岩場に荒く波が打ち付けている。
火サスのあの場所のように。


「人影は…ないけど…」



「あ!警察!…救急車?どこ!?」

慌てて携帯を取り出したけど、どこに電話したらいいの?







「…えーと、もしかして俺のことで慌ててるっぺか」


「ひゃあっ!!?」



突然後ろから声がかかる。

驚いて振り返ろうとした瞬間。



あ。




いざとなったらスローモーションになるって本当だったんだ。

ゆっくりと、岩場から落っこちて、青い空が正面に見えた。



あ、死んだ。
あんな奴にふられて死んだって思われたら最悪だ。
事故なのよ!
あたしは事故で死ぬのよ!





頭ん中で必死に言い訳したけど、なかなか痛くならない。
いくらスローモーションったって、いい加減落ちてもいいんじゃない?





ゆっくりと目を開けた。




「あれ?」




目を開けると、自分の下に海が広がり、上には空が広がっている。
そして。

私を抱き抱えている人が。




「脅かしちゃって、わりかったな!」



そう言ってにかっと笑う、その人は、まるで太陽のようだと思った。




「…え?ええ!?ちょっ!浮いてる!?浮いてるってば!!!」



ふと、自分の状況がわかって、その男の人の体をベシベシ叩いた。



「ああ、浮いてんな」


その人は、驚く様子もなくニコニコと笑っている。


「…あ…浮いて…ます…よね?…あれ?驚くことじゃなかった?」



その人の笑顔のせいで、浮いているのが不思議なことではないような気がしてきた。



「浮いてるってか飛んでるな。ここの風はなかなか元気がいいだな」



「あ、そうですか…。元気で何より…」


「ははっ!オメ変な奴だなあ!」



その人はそう言って笑うと、私にどうするか聞いてきた。


「?どうするとは?」


「おりる?このまま散歩する?」



「…いいの?」


そう聞くと、彼はにっこり笑って、勢いよく空高く飛び上がった。




「ひゃっ!?」



ものすごい勢いに彼の首に手をまわす。
すごく高いし、支えは彼の手だけなのに。


怖くなかった。



「わあっ…!…気持ちいい!」


初めて見る高さの景色は何もかもが足の下で、上にあるのは青い空と太陽だけだった。



「気持ちいいべ?」


「うん!すごい!」


私の言葉に、彼は嬉しそうに、だべ?と言って笑った。
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