妄想小説 番外編

□night flight
1ページ/11ページ


いつものように氷涙石を首から下げ、それを狙う妖怪を待った。
最近はこの辺の妖怪は俺に手を出さなくなっている。それだけ、俺は強くなっているということだ。

それはいいが、相手がいないのはつまらない。



…そろそろ移動するか。



飛影はそう思い、氷涙石を見つめた。


まだあの国の場所がわからない。
はやく見つけて、氷河の女を皆殺しにしてやる。


それでも顔も知らない母からの最初で最後の贈り物である氷涙石を見つめると気持ちが和らいだ。




「それ氷涙石でしょ」



木の上で氷涙石を見つめる飛影の横に、いつのまにか一人、女が座り声をかけた。

瞬間、飛影の剣が空を切った。


「危ないなあ。何すんのよ、いきなり」


女は隣の木に移り、少し笑って言った。



…できるな。



いくら気を抜いていたとは言え、いつの間にか隣に居て、俺の剣を避けるとは。


飛影は女を睨み付けた。
妖気を発し威嚇する。
いや、威嚇というよりは挑発といった方が正しい。

少しでも強い奴なら大歓迎だ。


飛影は剣を握り直した。



「…ちょっと、私別にヤル気ないんだけど」


女はそう言って両手をあげたが、飛影には関係なかった。

少しだけ口角を上げて、剣を振った。
また女は紙一重でそれを避けた。
飛影はお構い無しに剣を振り続けるが、女はどれも紙一重でかわし続けた。


そして。


「ヤル気ないって言ってるでしょ」


女は飛影の剣先を指で抑えて、にっと笑った。





「……なんの用だ」


飛影は剣から指を振り払い、鞘に納めた。



「その氷涙石。ちょっと見せて欲しくて」


女はまた笑って、飛影の胸元に揺れる氷涙石を指差した。


「…ふん」


飛影は女の頼みを鼻で笑い、背を向けた。


「あ、ちょっと!いいじゃん!見せてよ」



「ついてくるな」


「頼むって!!あたしもそれひとつ持ってるんだよ」


女の言葉に飛影は足を止めた。
振り返ると、女が髪を耳にかけると耳に氷涙石が光っていた。



「…氷女か?」


「一応ね」



氷女がこんなに強くなるか?

飛影は女の妖気を感じ、疑問に思った。

そもそも氷河の国から出るはずのない、氷女が何故こんなところにいる。



しかし飛影は疑問を口にはしなかった。


黙って、氷涙石を首から外し、女に投げ渡した。



「ありがと」


女は氷涙石を月にかざして見つめた。



「……これも違った…」



そう呟いて、香は飛影に氷涙石を返した。


「…何を探している?」


飛影は訊ねる。



「探してるってわけじゃないけど…」


女はそう言って、少しだけ寂しそうな顔をして下を向いた。



「…ありがと。じゃね」


女は顔を上げると、笑顔で飛影に手を振り、魔界の闇に消えていった。



氷涙石を返された時に、少しだけ触れた右手を見つめて、そっと手を握った。



「……ふん」


飛影は右手をポケットに突っ込んで、女とは反対の闇に消えた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ