妄想小説 短編

□サキヨミ
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私は南野くんの家に案内された。
心のどこかで、クラスの女子に見られたら怒られるな…と、なんとも間抜けな心配もしていた。


「あら、お友達?」

南野くんのお母さんがリビングから出てくる。

「あ、えと、初めまして、河嶋 香 と申します!
おっお邪魔します!」

何となく焦ってしまった。南野くんは少し笑っているのが見えた。

「あとでお茶持っていくわね」

南野くんのお母さんがそう言って微笑む。
優しそうなお母さんだな…。


「あれ?秀にい、彼女?」

階段から降りてくる中学生くらいの男の子が驚いたように言った。

「秀ちゃん、お兄ちゃんの邪魔しちゃダメよ」

お母さんが弟くんに注意した。
いやいや、彼女じゃないからっ。
ってか南野くんも否定しなよ。
何となく恥ずかしくなってしまい、顔が赤くなってしまった。


「騒がしくてごめんね、行こうか」

そう言って南野くんの部屋に案内してくれた。


南野くんの部屋は予想通りというか、きれいにしている部屋だった。
入り口で少し戸惑っていると、クッションをひとつ置いて、どうぞと声をかけられた。


クッションに腰をおろすと、南野くんが話始めた。


「いきなり驚かせたみたいで悪かった。
半年くらい前に君のような不思議な力を持つ人がいることを知ったんだ」


「半年前?…私が力に気づいたのもそのくらい…」

「その前に吐き気や頭痛がなかった?」

南野くんはなぜ知っているんだろう。

「あった…。なんでわかるの?」

「能力が目覚めるきっかけらしい。俺の知り合いも皆そうだった」

皆?
そんなにたくさんいるの?
急に知らされる事実に、頭が働かない。
聞きたいことはたくさんあったはずなのに。


すると、部屋のドアがなった。

南野くんのお母さんがお茶とクッキーを持ってきてくれた。

「ありがとうございます」

頭を下げると、お母さんはにこっと笑った。

「秀一が女の子を連れてくるなんて初めてだから嬉しくって。ゆっくりしてってね」


「母さん、もういいから」

少し照れたようにお母さんを部屋の外に出した。

南野くんでもあんな顔するんだ。
かわいいじゃん。


南野くんは視線に気がつき、咳をひとつしてみせた。

「ごめん、えと…。そうそう、能力のこと」


「河嶋さんの能力を教えてくれる?」

南野くんが真剣な表情になった。

「大したことないのよ?ちょっとだけ人の先の行動がわかるだけ」


そう言って紅茶を一口飲んだ。


「最初は本当にちょっと先だったの。鉛筆落とすとか、右に曲がるとかわかる程度。
今はだいぶ先までわかるようになったの。
最大24時間くらいだけど」

そう言うと、南野くんは少し考えているようだった。


「あんまり使うことないし、人のプライベートには興味ないし。
毎朝自分のこと見て、今日は授業当てられるかなとか、事故とかに遭わないかなとか確認するくらい」


「それは100%で当たるのかい?」


「ううん、多少変わることがある。
今日も南野くんが話しかけてくるなんてわからなかったし。
自分が未来を少し知ることで、運命が変わることがあるんだと思う」


「そうか…」


そう言うとまた少し考えてから口を開く。


「やっぱりあまり使わないほうがいい。
河嶋さんが先を知ることで未来が変わるなら、いつか大きく変わってしまうことだってあるし、それが危険なことかもしれない」


南野くんは真剣な顔をしている。

確かに、私もそれは気になってた。
だけど今までは、そんなに大きく変わったことはなかった。
授業に当てられないからとぼーってしてたら当てられたとか。
ナンパされるからって道を変えたら、宗教に勧誘されたとか。
その程度だった。

その話をすると、南野くんは言った。

「運命を知り、多少でも行動が変わるのは危険なことなんだ。
大袈裟に聞こえるかもしれないが、君の行動の変化で誰かの運命が大きく変わってしまう。
…そして、その事に君はいつか耐えられなくなる。
コントロールできるなら、もう力は使うな」


厳しくハッキリと、だけどどこか優しく彼は言った。

初めてまともに話したけど、なんとなく信じられる気がした。


「…わかった。使わない」

そう答えると、南野くんの目が丸くなった。


「まさか、こんな早く納得してくれるとは思ってなかったよ」


そう言って少し笑った。


「別にもともと重宝してた力でもないし。
人の運命変えるなんて、恐いし」

紅茶を一口飲んだ。
自分の能力が少しわかったようで安心した気がした。

あ、でもあとひとつ。


「なんで私が今日力を使ったのがわかったの?」


「能力を使えるテリトリーがあるんだ。君の場合おそらく半径30メートルくらいあるんじゃないかな。
その空間に入ると妙な違和感があるんだ。
その違和感でわかったんだよ」


うん…。
何となくわかった。
でもそれだけじゃ納得できない。


「何故、私だとわかったの?」



そう聞くと、南野くんが少し考えてる。

「…君のクラスに能力者がいる。そいつが君だと気づいた」


なるほど。
あの時の視線はそいつだったのか。


「…ありがと、だいたい聞きたい事は聞けた気がするよ」

そう言うと、南野くんが少し笑った。


「河嶋さんはおもしろいね」

ん?
いきなり何?


「てっきりクラスの能力者が誰か聞かれると思ってたんだけど。
本当に人のプライベートには興味ないんだな」


そう言ってクスクス笑った。

確かに、興味はないけどさ…。
なんか冷たい女みたいじゃんよ。


「あ、ごめん。変な意味じゃないんだ。
少し安心しただけだよ」


「安心?」


「君の能力は人のプライベートを知りたい人が使うと大変だろう?
俺も見られちゃちょっと困る」

そう言って笑った。

「困るって言われると見たくなるよ」

ちょっと笑って言うと、南野くんも笑った。

見ないけどね。
南野くんのこと、知りたいような知りたくないような不思議な気持ちだ。


「じゃあ、そろそろ帰るね、ありがと」


そう言って立ち上がると、南野くんも立ち上がった。

「もう暗いし送るよ」

「えっ!あ、いいよ、大丈夫」


そう言ったけど、南野くんは部屋を出てリビングのお母さんに送ってくると声をかけていた。

「あら、帰っちゃうの?夕飯もどうかと思ってたんだけど…」

お母さんは残念そうに言った。

「また来てね」

また優しそうな笑顔を見せてくれた。

お礼を言って家を出た。
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