妄想小説 短編 2
□Baby Maybe
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香が入社してきたのは2年前。
蔵馬が5年目の時だ。
大学卒業したばかりの香は、男性社員にとってアイドル的存在だった。
蔵馬にとっては可愛い新人、ただそれだけだった。
香が恋愛対象になったのは今から半年前。
たまたま帰りの電車が同じになり、ちょっとのつもりで寄った居酒屋。
気がつけば一緒に朝を迎えていた。
流されたというつもりもなかったが、まさに“あの時はどうかしていた”のだ。
しばらく香は何事もなかったかのようにしていたから、蔵馬も同じようにしていた。
一夜の過ち、ちょっとした遊び。
香がそう考えているなら、こっちも助かる。
そう思っていたのに。
あの日と同じ、アリュールの香りを嗅いだとき。
自分でも不思議だった。
気がつけば香の肩を叩き、食事に誘っていたのだ。
あの日から、香のアリュールは二人の合図。
のめり込まないよう、自分に言い聞かせていた。
なぜなら。
香もまた、そうしていたように見えたから。
いつか本命が出来たら切ろう。
そう思っているのがわかっているから。
都合のいい、ゲームの対戦相手。
何度も何度も。
自分に言い聞かせている。