妄想小説 短編 2

□Baby Maybe
2ページ/13ページ

香が入社してきたのは2年前。
蔵馬が5年目の時だ。

大学卒業したばかりの香は、男性社員にとってアイドル的存在だった。
蔵馬にとっては可愛い新人、ただそれだけだった。

香が恋愛対象になったのは今から半年前。
たまたま帰りの電車が同じになり、ちょっとのつもりで寄った居酒屋。
気がつけば一緒に朝を迎えていた。

流されたというつもりもなかったが、まさに“あの時はどうかしていた”のだ。

しばらく香は何事もなかったかのようにしていたから、蔵馬も同じようにしていた。
一夜の過ち、ちょっとした遊び。
香がそう考えているなら、こっちも助かる。

そう思っていたのに。


あの日と同じ、アリュールの香りを嗅いだとき。


自分でも不思議だった。



気がつけば香の肩を叩き、食事に誘っていたのだ。



あの日から、香のアリュールは二人の合図。


のめり込まないよう、自分に言い聞かせていた。

なぜなら。


香もまた、そうしていたように見えたから。


いつか本命が出来たら切ろう。
そう思っているのがわかっているから。


都合のいい、ゲームの対戦相手。


何度も何度も。
自分に言い聞かせている。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ