妄想小説 短編 2

□close to you
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学校から帰っても、母親はいつも通りだった。
高校初日、どうだった?とか聞いてくれたっていいのに。
そうは思ったが今さら興味を持たれたところで、こっちが困る。
香はそう思って、黙って部屋に籠った。

鞄から部活に関するプリントを取りだし、ベットに横になりながら見つめた。

「体育系は無理でしよー…。
吹奏楽とかも避けたいよね…」

部活名と紹介文を読みながら、裏にすすむ。

ひとつ。
気になる部活が目に入ってきた。


「生物部かあ…」


いずれ医療系に進みたいと考えていた香は、これならましかもと考えていた。

「…少人数のアットホームな部活ねえ…」


明日見に行ってみよう。
そう決めて、ベットから起き上がり鞄にプリントを押し込んで、新しい教科書を取り出した。




次の日の放課後、香は一人で生物室の前にいた。
昨日話しかけてきた子は、美術部に入ることにしたらしい。
香も誘われたが、素晴らしい画伯なので断った。

しかし、いざ生物室の前に立つと下手でも美術部にしておこうかと思うくらい、異様な空気だった。


「…帰ろっかな…」

心が折れそうになり、帰ることにした香が生物室を背にした時だった。

「ぶっ!」

「ああ、ごめん。大丈夫ですか?」

香は思いっきりぶつけた鼻を擦りながら、顔をあげた。


香はそのぶつかった相手の顔を見つめ、時間が止まったような感覚に陥った。


「大丈夫?新入生?」


相手の質問に、こくこくと頷くのが精一杯だった。

「あ、もしかして入部希望者かな?」

その言葉に、まだ見学のつもりだったのがどこかにふっとんでいってしまった。

同じようにこくこくと頷くと、にっこりと笑うから、香は心臓が思いっきり握られたような感じがした。
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