妄想小説 長編 2

□Dr.イチガキの罠
2ページ/8ページ


部屋に戻ると、幽助とばー…覆面さんしかいなかった。

「あれ?二人は?」

「どっか出掛けたぜ」

んー。
そっか。
どうしよっかな。


「あ、そういや。
昨日はごめんね!!心配かけて!」

二人にそう言うと、幽助は全く訳がわからない顔をしている。

「昨日?何かあったの?」

あ、そっか。
こいつ寝てたな。

「うん、ちょっとね」

覆面さんをちらっと見ると、長いため息をついて頭を振った。

む。

ばーちゃんは絶対心配してなかったな。


とりあえず。

「二人捜してくるっ」



そう言って再び部屋を出た。



ホテルを出てはみたものの、どこにいるかなんて検討もつかない。
とりあえず人の居なさそうな方向に向かってみた。



しばらく歩き続けていると、ふと、後ろで誰かが着いてきている気配を感じた。

いつから?

全然気にせず歩いてきたから、気づかなかった。
やだな。
また面倒なことになったら。

…逃げるか。


そう決めて、足に力を込める。


地面を思いっきり蹴り出すと、自分でもビックリするくらい速く走れた。
修行中につけてた枷がないから、すいすい飛ぶように走れる。

「うっひょー!気持ちいいっ!」

この勢いで、捜しに行っちゃお。

足の動きを速めながら、森の奥深くへと進んだ。




どのくらいたったか。
後ろからついてきてた気配はもうない。

撒いたかな?

そう思って、ゆっくりと足を止めた。


「ふー。なんだったんだろ。
ま、いっか。ここどの辺なんだろ」

そう言って辺りを見回した時だった。



「その程度か」


低い、男の声が。
私の真後ろから聞こえてきた。

体が固まって動けない。


誰?


そう聞き返したくても声が出なかった。

心臓がどくどくと早くなる。


「まだ力の出しかたがわかってないようだな。
決勝までに出せるようにしておけ。
さもないと、皆死ぬぞ」


男の声は、私の脳に直接入り込んでくるような、妙な心地よさがあった。
恐怖感と快感が混ざりあうような。


男は私の髪を少しだけ指にとり、ゆっくりとそれに口づけをした。
その動作は、どこか懐かしさを覚えた。


「今に思い出せる」


男はそう言い残して姿を消した。


髪がパサッと背中に落ちると、ガクンと膝から崩れてしまった。
冷たい汗が頬を伝う。
手も足も震えが止まらない。
ものすごい妖気だったわけでもない。
殺気があったわけでもない。

全てを見透かし、私の中のものを揺り起こすような囁き。

それが恐ろしかった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ