妄想小説・女子編

□candle
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目を覚ましてから三日後、ようやく母さんは事故の話をしてくれた。
バスは原形をほとんど残してなくて、助かったのは奇跡だと言われた。
生き残ったのは俺とあと三人だけ。
あとは皆助からなかったそうだ。

「はなちゃん?」

「うん、お母さんと二人で乗ってたんだけど…」

「…助かったのは男の人だけだって聞いたから…」

「…そっか…」


母さんの剥いてくれたリンゴを食べながら、窓の外を見た。
お父さんに会いたかっただろうな…。

「最後に話したんだ…もうすぐ助けにくるから頑張れって…。
嘘ついちゃったな…」

「…あんたが悩むことじゃないよ。
仕方がないこともあるのさ」

母さんはそう言って病室を出ていった。
たぶん泣いているんだろう。
母さんはすぐ泣くから。
俺がもし死んでいたら、母さんはどうなってしまうんだろう。

助かって良かったという思いと、俺より小さな子が死んでしまうことへの憤りを感じていた。


「…俺なんかが助かって…良かったのかなあ…」

「なあに言ってんのさっ」

「だってあんな小さい子が…」

「死っていうのは不公平に見えて公平に訪れるものさ。
仕方ないんだよ」

「そういうもんかなー」

…って。


「うわあああああっ!!!!!」


ベッドの横に、あの桜の色の着物を着た。
キレイな女の人が。

ふわふわと浮いていた。


「…なっ…なっ…なっ…」

「初めまして!…あ、初めましてじゃないか。
んー、ま、いいさね。
私は水先案内人のぼたんちゃんよっ!
よろしくねっ♪」

「…水先…案内人…?」

それって。

「…お、俺を迎えに来たってことっすか!?」

驚く俺をきょとんとした顔で見て、けらけらと笑った。

「やあだ、違うよお!あたしは、そのはなちゃんに頼まれて来たんだよ」

「え?」

「本当はこういうことはしちゃいけないんだけどね」

そう言って、ぼたんさんは俺の手の中に小さな紙を渡した。

その紙には、たどたどしい字で。

『ありがとうございました』

と、書いてあった。
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