薄桜鬼・妄想小説 long story
□永倉新八【想い人〜すれ違い〜】
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ここは、江戸の花街、『吉原』。
昼間はほとんど人気のない、静まり返った空間が
夜には、一変し、華やかで、なんともいえない色香に酔いしれる男たちで賑わう
私は、7歳の時に両親に連れてこられた。
まぁ、言ってみれば『売られた』のだ
もちろん、最初は裏で雑用をする毎日で、表に出ることはなかったが、ここがどういう場所なのか
毎日生活していれば自然と分かり、いつか自分も表に出なければならない時が来ると、嫌でも理解しなければならなかった。
当初、その事実を受け入れることなんて、到底無理な話で、毎日毎日泣いてばかりいた
逃げ出したくても行く場所なんて無く、こんな子どもが一人で生きていくことなんて、自殺行為もいいところだ
まぁ、私にはそんな勇気もなかったけれど…
唯一救われたのは、そこの楼主が人の心を持っていたということ
厳しい人ではあったが、泣いている私の隣に、ただ黙って座っていてくれた
その楼主にあるときこう言われた――――
「なぁ結花、俺はな、おまえには素質があると思ってる。勉強熱心だし、周りをよく見ているし、気遣いも上手く出来ている。おまえは、この先絶対大物になるぞ。
最初はキツいかもしれないが、人気が出るようになったら、おまえの好きなようにしていい。嫌な客はとらなくてもいい。
もし、惚れた男ができたら、そいつと一緒にここを出ていってもいい。
それまで、頑張れ。頑張って、ここで生き抜いてみろ!!」
――――私の好きなように出来る…
その言葉に若干の希望は見出せたものの、『惚れた男』という言葉は、私の心にひどく切なく響いた
きっとこの先、誰かしらに惚れることはあるだろうとは思う
ただ、私に惚れる男は……いないだろう
惚れたと言っても、それは遊女の私にであって、本当の私にではない
もし、吉原以外の場所で出会ったとしても、遊女だと知れば、すぐに私から去っていくのが関の山
だから、恋心というものは、この時点で封印した
私は、遊女になりきり、ここに来る男たちを、私の色香で惑わせ、惚れさせ、溺れさせる
そして、いつか必ず、ここを出ていく…
そう決心し、私は泣くことをやめた
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