薄桜鬼・妄想小説 long story

□永倉新八【想い人〜すれ違い〜】
1ページ/32ページ



ここは、江戸の花街、『吉原』。





昼間はほとんど人気のない、静まり返った空間が



夜には、一変し、華やかで、なんともいえない色香に酔いしれる男たちで賑わう



私は、7歳の時に両親に連れてこられた。



まぁ、言ってみれば『売られた』のだ



もちろん、最初は裏で雑用をする毎日で、表に出ることはなかったが、ここがどういう場所なのか



毎日生活していれば自然と分かり、いつか自分も表に出なければならない時が来ると、嫌でも理解しなければならなかった。



当初、その事実を受け入れることなんて、到底無理な話で、毎日毎日泣いてばかりいた



逃げ出したくても行く場所なんて無く、こんな子どもが一人で生きていくことなんて、自殺行為もいいところだ



まぁ、私にはそんな勇気もなかったけれど…



唯一救われたのは、そこの楼主が人の心を持っていたということ



厳しい人ではあったが、泣いている私の隣に、ただ黙って座っていてくれた



その楼主にあるときこう言われた――――





「なぁ結花、俺はな、おまえには素質があると思ってる。勉強熱心だし、周りをよく見ているし、気遣いも上手く出来ている。おまえは、この先絶対大物になるぞ。
最初はキツいかもしれないが、人気が出るようになったら、おまえの好きなようにしていい。嫌な客はとらなくてもいい。
もし、惚れた男ができたら、そいつと一緒にここを出ていってもいい。
それまで、頑張れ。頑張って、ここで生き抜いてみろ!!」





――――私の好きなように出来る…




その言葉に若干の希望は見出せたものの、『惚れた男』という言葉は、私の心にひどく切なく響いた




きっとこの先、誰かしらに惚れることはあるだろうとは思う



ただ、私に惚れる男は……いないだろう




惚れたと言っても、それは遊女の私にであって、本当の私にではない




もし、吉原以外の場所で出会ったとしても、遊女だと知れば、すぐに私から去っていくのが関の山




だから、恋心というものは、この時点で封印した




私は、遊女になりきり、ここに来る男たちを、私の色香で惑わせ、惚れさせ、溺れさせる




そして、いつか必ず、ここを出ていく…





そう決心し、私は泣くことをやめた







次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ