薄桜鬼・妄想小説 long story

□永倉新八【想い人〜すれ違い〜】
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「そいじゃ、いただくぜ、結花ちゃん!」


くいっとお酒を口に運び、やっぱうめ〜な〜、なんて言いながらほんとにおいしそうにお酒を呑んでいる姿に、笑みがこぼれそうになる。



「そういえば、今日はお一人でいらっしゃったんでおすか?」


「いや、仲間と一緒にな。今もまだ呑んでんじゃねーかな。」


「でおしたら!あちきのことはもうええでおすから、お仲間様のところに行ってくんなんし!」


「いや、あいつらとは毎日のように呑んでっから、たまにはこうして静かに呑むのもいいもんだ。しかも、隣には結花ちゃんがいるしな!美人についでもらう酒は、やっぱ格別よぉ!」



「でおすが…、新八さんが急にいなくなって、心配してんせんか?」



「俺のことなんて、心配するやつぁ、いねーから!!どうせ、またどっかほっつき歩いてんだろ、くらいにしか思ってねぇよ。だから、んなこと気にすんな、な?」



そういって、またあの笑顔をみせる。


ほんとによく笑う人だな。


しかも表情もコロコロ変わる。



自分の頬が自然に緩むのを感じるのは、いつぶりだろうか…


「あの…新八さん…」


「ん?どうした?」


「やはり、先程助けていただきんしたお礼をしたいのでおすが…」


「だから、礼なんて…」



「それでは、あちきの気が収まりんせん。何か欲しいものや、して欲しいことがあれば遠慮せずに言ってくんなんし」


「んー…そう、言われても…なぁ…」



困らせてしまった、と思いながらも、やはりお礼はきちんとしておかなければ。


そのとき、ふと頭の中に、床入りの文字が浮かぶ。


もし、新八さんにそれをお願いされたら…

  

そんなことを考えていたら…



「そうだ!!今度ちょっくら買い物に付き合ってもらえねぇかな?」



「!!か、買い、物…でおすか?」



「いや〜、女が欲しがるものっていうのが、いまひとつ分からなくてなぁ…。あいつらに聞くのも、なんか、照れるしよぉ結花ちゃんなら、いい店とか知ってそうだしな!!」


「…いろへの贈り物でおすか?」


「あ、いやっ、恋人ってわけじゃあねぇんだけどよ…。その…ちょっと…いいなぁ、って奴がいてな…」



そう言いながら、顔を赤らめ、照れながら頭をポリポリ掻く新八さん。


その姿に、妙に胸がざわついた…



「まぁ、あんまり高価なものは買ってやれねーんだが、こう、気の利いたものがあれば、あいつの喜んだ顔がみれるかなぁ、なんて…。あ、いやっ、迷惑だったら全然いいんだ!!こんなこと、頼まれても…」



「いえ、かたきし構いんせんえ。お買いもの、どうでもお付き合いさせてくんなんし」


「ほ、ほんとかっ!?いやぁ、よかったぁ…。変なもんあげて、幻滅されるんのも困るしなぁ、って思ってたんだ。ほんとに助かる!!ありがとな!!」



すごく嬉しそうにそんな話をする新八さんの姿に、息苦しさをかんじる。



なにかが、おかしい…



「でも、それではお礼になりんせんゆえ、もしよろしければ、こののち、ここに来て、あちきの名前を言っていただければ、いかほどでもお酒を用意させていただきんす。もちろん、お仲間様もご一緒に」



「いや、買い物だけでもほんとにありがてぇのに、そこまでは…」



「それくらいのことは、なんともありんせんから。それに、今日のようなこともありんしたし、たまに顔を出してたえだけたら、あちきも心強いでおすし…」



何を言っているんだろう…



お礼という名を利用して、私が彼をここへ…誘ってる…?



永倉「そう…か?まぁ、それはすごい嬉しい申し出だが…。なんせ、みんな金がない連中ばっかりで…。ここに来たのだって、まだ今日で2回目だし、今日だってちょっとした手当が入ったから来れたようなもんで、普段ならぜってー来れねぇからなぁ…。あいつらなんて、飛び上がって喜ぶだろうし…。下手したら毎日入り浸るかもしれねぇぜ?そんなことになったら、結花ちゃんに迷惑が…」



「あちきなら、かたきし平気でおす。普段、あんまり相手にしたくねえ方達から、逃れる口実になりんすし。当主からは、ある程度の好き勝手は大目に見ているゆえ、怒られることもありんせんし。いっそ、新八さんといると、楽しいでおすし…」



……楽しい?


私、いま、そう言った…よね。



なんで、そんな風に思った?



彼はただの客なのに…



他の男たちと、なんら変わりはないはず…なのに…



「お、嬉しいこといってくれるじゃねぇか!まぁ、結花ちゃんが楽しんでくれるなら、その申し出、断る理由がねぇよな。んじゃ、お言葉に甘えて、使わせてもらうとするか!!」



そう言った彼の笑顔が、目に焼き付いて、離れない。



先に、彼に触れられた部分が、熱くなるのを感じる。



この気持ちは……



「んじゃ、そろそろ行くかな」



そう言って立ちあがった新八さんに、もう一度お礼を言い、明後日、買い物に行く約束をし、彼を見送った。



彼が部屋から出て行った後、私はその場に座り込み、しばらく動けなかった。



彼には、好きな人がいる…



そして、私はこの気持ちを、封印したはず…



会うのをこれっきりにしていれば、きっとまだ間に合ったはず…



なのに…



出来なかった。


彼にもう一度、会いたかった。


あの笑顔を、もう一度、見たかった。


もっと、彼を、知りたいと…思ってしまった…




届くことのない、この想い…


気づかなければよかった…




でも…もう……遅い…











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