薄桜鬼・妄想小説 long story

□永倉新八 【想い人〜再会〜】
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「悪かったね、睨んだりして…あの子に言い寄る男どもが後をたたなくてねぇ。まぁ、あそこまで美人で気立てがいいと、仕方ないんだろうけど…。言い寄ってくる男の中にも、優しそうな好青年なんかもいてね、恋仲がいれば、こんなに寄ってくることもなくなるんじゃないかと薦めてみたんだが、あの子は、もう心にきめた人がいるから…と、頑なでね」



そんな話をする店主の顔は、一番最初の優しい顔に戻っていた



「…あの子がここに来たとき、最初は一晩だけ泊めてほしい、と言われてね。こんな綺麗なお嬢さんがどうしたのかと思ったけど、何か訳があるんだろうと思い、離れの部屋をかしてあげてね。次の日、お礼も兼ねてって、店を手伝ってくれたり、近所の子供たちと遊んでくれたり、ほんとによく働いてくれてね。私がなんとなく、この後どこへ行くのか尋ねると、少し曇った顔をして、切なげに微笑むだけだったんだ。だから、もし行くところがないんだったら、ここで住み込みで働かないか、と声をかけたんだ。最初は申し訳ないと言っていたけど、私の強いすすめで、ここで働くようになってね。その時、自分の過去を全部話してくれたよ。置いてもらうなら、身の上を知った上での方が安心だろう、と言ってな。ほんとに、真面目で素直ないい子だよ」



「…じゃあ、やっぱりあいつはここにいるのか?あいつが花魁だったってことも、どうして江戸を離れたかも…全部聞いてるのか?」



「あぁ、聞いてるよ。あの子の惚れてる男が、どういう男かもね」



そう言って、にやっと笑いながら俺の方を見る



「真っ直ぐで真面目ですごく素直で、不器用なところもあるけど、何に対してもすごく一生懸命で、絶対嘘はつかない人だって、な」



「!」



「それ、まるっきり新八っつぁんのことじゃんかぁ!馬鹿がつくほどの正直者だからなぁ」



「だな。ま、嘘はつかないんじゃなくて、つけないんだけどな。すぐ顔や行動に出るから、わかりやすすぎるって話だもんな」



「お、お前ら…」



「はーっはっはっは!!確かにわかりやすいかもなぁ。あんなに真剣な目で見つめられたのは久々だったよ。…あの子に会いたいんだろ?」



「…会いてぇ…会いたくて、たまらねぇよ」



店主は微笑みを浮かべ立ちあがると、店の外まで足を進めた



「この先の林の中を進んで、少し奥まで行くと、桜の木が見えてくる。休みの日は大抵、そこにいると思うから、行ってあげなさい」



「あ、ありがとな!!」



そう言って、俺はまた駆け出した



もうすぐ会える…




お前に会いたくて、声が聞きたくて、触れたくて…



この日をどれだけ、夢見てきたか…



待ってろよ、今、行くからな…








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