恋愛上等イケメン学園・妄想小説
□冴島由紀【Feel me】
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カシャカシャカシャ…と泡だて器がボウルをこする音が静まり返った部屋に響く
そして、そんな作業をしている自分に未だに恥ずかしさが拭えず、まだ帰ってこないというのをわかっていても玄関で音がしないかと耳をそば立てながら…
「…で、次は何?小麦粉?…また混ぜるのか」
市販で売っているお菓子作りの本…ではなくて、小さなノートに自分が書いたレシピを見ながらさっき量って奮っておいた小麦粉を手に取る
普通の料理本にはよくわからない用語などを使っているものが多く、それを調べるという作業をしている途中で、もう無理…と断念してしまう気がして、あらかじめ家庭科の先生にそれとなく簡単に作れるケーキのレシピと、作り方を口頭ではあったけれど教えてもらっていたのだった
わからないところはその場で全部聞いてこれたし、本を見るよりも確実だと思ったから
…にしても、さっきから混ぜてばかりの作業に嫌気がさしそうになりながらも、なんとか気持ちを奮い立たせて、また軽快に泡だて器を躍らせた
まさか自分が誰かの為にケーキを作るなんて、思ってもみなかった
正直、料理はあまり得意とはいえず、由紀と一緒に住んでからも何回かそのことで口論となっている
―――…「……なんだよこれ」
「見ればわかるでしょ?」
「わかんねぇから聞いてんだろ?」
「…だったら食べなきゃいいでしょ!」
「だからなんだって聞いてんだよっ!」
「……酢豚」
「……・・・ブッ…ククッ…」
「もういい!食べなくていいっ!!もう捨てるっ!!」
「誰も食わねぇとは言ってねぇだろ?まぁ確かに…あんま食欲はそそられねぇがなぁ〜…ククッ…」
「…やっぱ捨てる」…――――
なんてやり取りもしばしばで…
そんなことを言いながらも結局ちゃんと食べてくれる由紀に、心の中では感謝しつつもそれをどうしても言葉にできないでいたから
今日という日を利用して、普段絶対に作ろうとも思わないケーキなんかを作ってその感謝を表現しようと思ったのだけれど…
「…そう思ったのが間違いだったかもしれない…」
今日ほど自分の不器用さを呪ったことはない
女だからって料理が上手じゃなければ駄目だとか、そんな理不尽な事はない!なんて突っぱねてた自分に後悔すらしてしまう…
やっぱりそこそこの料理くらいは作れるようになっておけば良かった…
泡だて器をボウルに擦り付けながら、今日何回目かと思うため息をゆっくりと吐き出した
やっぱり今から既製品を買ってきた方がいいんじゃないかと手を止めながらも、次にはもう少しだけ、と自然とまた手が動き出す
食べれるものが出来上がるかどうかもわからないのに、何をこんなにも手作りにこだわるのか…
きっと、バレンタインの事を引きずっていることもあり、普段の悲惨な夕飯へのリベンジというのも多少なりとも頭のどこかにあるんだろう
それが今の私を突き動かしている…そんな感じだった
幸いなのかなんなのか、今日は学校で会議があるとかで由紀の帰宅は遅くなるということで、私は定時で帰宅して、こうして誕生日ケーキ作りに奮闘しているのだった
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