恋愛上等イケメン学園・妄想小説
□梅咲夏男【贈想】
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RRRR…RRRR…
携帯を持つ手が重い
相手が出るまでのほんの少しの時間がすごく長く感じる
そして…
『は〜い、神蘭寮ですけど…』
「あ、あ…あの…」
『あら結花ちゃん?どうしたの?』
受話器越しに響く夏男の声…
名乗らなくてもすぐに私とわかってくれる彼に、今日は嬉しい気持ちよりも苦しい気持ちの方が勝る
でも、それを夏男に気取られないようにと出来るだけいつもの明るい口調で電話の向こうにいる夏男に要件を述べた
「あの…、今日なんですけど、ちょっとバイトの子が一人具合いが悪くなってしまって私が代わりに入ることになったんです。だから、帰りは9時くらいになってしまうと思うので…」
『あら〜それは大変ね。こっちは大丈夫だけど、結花ちゃん、帰り道大丈夫かしら…』
「あ、私は全然大丈夫です!寮からそんなに遠くないですし…」
『それはそうだけど…』
心配そうにする夏男にもう一度念を押すように“大丈夫です!”と元気に答え、それでもなんとなく不安げな夏男をそのままに電話を切った
切ったあとに出てくる盛大なため息は、私の悲しみをさらに煽るようだった
…今日は大好きな夏男の誕生日
付き合い始めて、最初の夏男の誕生日だった
だから、彼女として夏男の誕生日をちゃんと祝ってあげたくて、夏男に喜んでほしくてプレゼントを買うために短期のアルバイトを始めた
そしてそのバイトが最終日の今日、あがる時間を6時にしてもらい、お給料をもらったあとその足で夏男のプレゼントを買いに行こうと、そう思っていたのに
急にもう一人のバイトの子の具合いが悪くなってしまい、断るに断れきれなくて結局9時までお願いされてしまった…
9時じゃもう、どのお店も閉まってしまっている
ケーキだってきっと買えないだろう
皆で夏男の作ったご馳走を食べながら彼のお祝いをして、その後夏男の部屋でプレゼントを渡そうと思っていたのに、それが全て駄目になってしまった
せっかく今日この日のためにと頑張ってきたのに…
ロッカールームで一人、止まらぬため息に天を仰ぐ
それでも…こうしていても状況は何も変わらないし、もう決めてしまったことだから…と、気持ちを切り替えるように数回首を横に振り、もう一度短い息を吐いたあと
「…よしっ」
そう気合いを入れるような声を自分に掛けて、ロッカールームを後にした
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