長編3

□帰ってきた王子様(R)
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ライアンに肩を抱かれたままオフィスに戻る途中、二人は自販機コーナーの前を通りかかった。

「こないだの礼に、今度は俺様がコーヒー奢ってやろうか?」
「いや、今はいい。それより、俺まだ契約書にサインしてねーんだけど」
「慌てなくてもいいんじゃねえの?どうせ、オッサンはサインする気なんだろ?」
「そりゃまあ、そうだけど」

言いながら、虎徹は肩に置かれたライアンの手をさり気なく外す。

「なに?あんた、俺のこと警戒してんの?」
「んなわけねーだろ」
「じゃあ、コーヒーくらい奢られてもいいよなあ」
「…あー、もう好きにしろ」

ライアンの物言いは強引だが、なぜか嫌みを感じさせない。
これは彼が持つ人柄のせいなのだろうか。

(なんか逆らえないんだよなあ…)

すっかり彼のペースにはまってしまっている。
そう思いつつも虎徹は結局、ライアンと共に自販機コーナーにいた。

「オッサンさあ、」
「なあ、そのオッサンてのはやめてくれないか。さすがにちょっと傷つく」

ホットコーヒーを受け取りながら、虎徹が肩を竦める。

「んー、じゃあ虎徹」
「って呼び捨てかよ!」
「冗談だって。けど虎徹さんじゃ、ジュニアくんと被っちまうし…」
「…お前ら、俺のこと絶対年上だと思ってないだろ」
「なら、タイガーでどうだ?」
「いいよ。そいつで勘弁してやる」

こういう人の話を聞かないところなんかはバーナビーに似ている気もするが、性格や価値観はまるっきり正反対のようだ。
先が思いやられると同時に今までよくバーナビーとコンビが組めていたなと感心する。
だがしかし、と逆のことも考えてみる。
ヒーローTVの放送を見た限り、彼らのコンビネーションは決して悪くはなかった。

(もしかしたらこいつらは俺が間にいない方が案外うまくやれるのかもしれないな…)

想像すれば胸が苦しくなって、虎徹は思考を止めた。
いずれにしても三人での活動は会社命令だ。
今さらあーだこーだと悩んだところで仕方ない。
それよりもどうすれば彼らと上手くやっていけるのか、そのことを考える方が先だと自分に言い聞かせ虎徹は気持ちを切り替えた。

「それから、あんまバニーを挑発すんのはやめてくれ」

そう切り出せば、ライアンは口角をわずかに上げた。

「へぇー、あんたらやっぱデキてんの?」
「……」
「そういや、ジュニアくんてあんたの王子様なんだっけ」
「それに関しちゃ、ノーコメントだ」

コーヒーを啜りながら虎徹は視線を逸らせる。

「第一、他人のプライバシーにズカズカ立ち入ってくるのは感心しねえな」

たしなめるような口調にライアンは開きかけた口を閉じ、目を細めた。
目の前にある横顔はテレビでよく見るおちゃらけた彼とは別人のような、大人の男の表情だ。

(それだけジュニアくんを大事に思ってるってことか、妬けるねぇ)

「いいねえ、その余裕」
「あ?」
「マジでかっ攫いたくなる」

何言って…と言いかけた虎徹の唇がライアンによって塞がれる。

「んッ、」

抗うことも出来ない濃厚なキスを施した後、彼は虎徹を解放した。

「てめっ…」
「隙だらけなんだよ、ワイルドタイガー」
「…ッ」
「こいつは挨拶代わりのキス…いや、あんたらへの宣戦布告とでも言っとこうか」

虎徹を見つめて一言、

「あんたはこの俺が落としてやるよ」

さすらいの重力王子は自信たっぷりにそう宣言したのだった。





つづく

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