長編2

□シーソーゲーム
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だからむやみに突っ込むなとあれほど言ってるのに、と病院のベッドに横たわる虎徹を見てバーナビーはため息をついた。

「まったく、あなたって人は。どれだけ僕を心配させれば気が済むんですか」

虎徹が倒れて入院し、そして退院したのはつい最近の話だ。
こんな風に眠っている彼を見ていると当時の不安な心境を思い出し、思わず表情が険しくなる。

(やっとここまで辿り着いたのに…)

最悪の出会いから様々な紆余曲折を経て、バーナビーと虎徹はようやくただのバディから相思相愛、いわゆる世間で言うところの恋人同士へと昇格した。
渋る虎徹を何とか説得し、週末だけとの条件付きでバーナビーの部屋で同棲を始めたのがほんのひと月前のこと。
少しでも傍にいたいと願うバーナビーをよそに、いまだに彼は自宅を手放そうとはしない。
苦労しながら少しずつ縮めてきた距離を、今更ぶち壊す真似はしたくない…とは思うものの。

目の前で眠り続ける虎徹に視線を戻し、これだから目が離せないのだと、バーナビーは再度、深いため息を吐いた。



「で、犯人のNEXTの能力はまだ分からないんですか?」
「今、調べてるらしいんだけど、タイガーが目覚めれば分かるんじゃなーい?」

ネイサンが頬杖をつきながら答えると、バーナビーはますます眉間にしわを寄せた。
犯人確保のためにいの一番に飛び出した虎徹が相手の攻撃を受けて倒れてから、すでに小一時間が経つ。
事件そのものはあっさり解決したというのに虎徹だけが目覚めず、ヒーロー達は心配そうに様子を見守っていた。

「ん…」

不意に虎徹が身じろぎをして、ゆっくりと瞼を開いた。

「気がつきましたか?」

バーナビーが身を乗り出して瞬きを繰り返している虎徹に声を掛ける。
しばらくぼんやりと宙をさまよっていた彼の視線がやがて、バーナビーを捉えて見開かれた。

「虎徹…さん?」

見慣れた琥珀の瞳はただバーナビーを見つめるだけで、一向になんの反応も返してはこない。

「虎徹さん!!」

いつもは口やかましい相棒の重苦しい沈黙にじれて、相手が自分よりも年長者であることも忘れてバーナビーは虎徹を怒鳴りつけていた。
一見クールに見える若者が実は大変な激情家であることを知るごくわずかの者以外は、あまりの剣幕に肩を竦める。

「まったく、あなたって人は!何で毎回、こんな無茶ばかりするんですか!」
「…わ、わりぃ!」

目覚めた途端にいきなり怒鳴られた虎徹が素直に謝る。

「ってか、俺どうなったんだ?」

静かにことの成り行きを見守っていた仲間達は、普段と変わらぬ彼の様子に安堵の息を吐いた。

「…どこか痛むところはありませんか?」
「いや、ない…けど」

少し冷静さを取り戻したバーナビーもまた眼鏡の縁を上げ、悟られぬよう息を吐く。

「あんたはねえ、バカみたいに張り切って犯人に突っ込んでって逆にやられちゃったのよ」

ネイサンが身振り手振りを交え、大げさな口調で説明すると虎徹はバツが悪そうに口を尖らせた。

「命に別状が無かったからよかったもんの、もう少し考えて行動なさいな」
「そうだぞ、虎徹。お前にもしものことがあったら楓ちゃんはどうするんだ?」
「…う、そんなに責めんなよ」

周りを囲む仲間から非難めいた視線を向けられ、虎徹は居心地悪そうに布団の中に潜り込んだ。

「みんな心配したんだからね」
「ブルーローズ…」

強がりながらも震えを隠しきれていない声音に虎徹はようやく、皆の思いを汲み取る。

「心配かけて悪かった」

ベッドに体を起こし、苦笑いを浮かべた彼にどっちが年上だか分からないなとヤジが飛んだ。
ひでーな、と拗ねるベテランヒーローに笑いが起こる。
ひとしきり笑い合った後、ふと思い出したようにイワンが虎徹に尋ねた。

「ところで、タイガーさん」
「なんだ、折紙?」
「何も変わったこととかないんですか?」
「変わったことって何だよ?」

イワンの問いの意味が分からず、虎徹は首を傾げる。

「そういえば、犯人はNEXTだって言ってたけど…。あんた、まともに攻撃食らって何ともないわけ?」
「そう言われてもなあ…」

うーん、と首を捻ってしばらく考え込んでいた虎徹だったが…。
突然、何かに気づいたようにハッと顔を上げた。

「そう言えば、」

ゆっくりと仲間達の顔を順番に見回し、やがてバーナビーの所で視線を止める。

「あのさあ」
「何です?」
「さっきから気になってたんだけど、お前さん誰だっけ?」

思いもかけない虎徹の言葉にバーナビーのみならず、その場に居合わせた者達全員が文字通り一瞬にして凍りついた。











つづく


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