長編2

□シーソーゲーム4
1ページ/1ページ





「…と言う訳なんです」
「……です」

アポロンメディア社に戻った二人は緊張した面持ちでロイズの前に立っていた。
結局、説明のほとんどをバーナビーに任せた虎徹は、小さくなって上目遣いにロイズを見る。

「ハアー、まったく君という男はいつもいつも、面倒ばかり起こしてくれる」
「…すいません」

呆れたように腕組みを解いたロイズが額を押さえると、虎徹はますます恐縮して視線を足下へと落とした。

「とにかく、君とバーナビーくんはコンビだ」
「…はい」
「だけど、あくまでも君は彼の補佐であり、引き立て役だということ。これだけ覚えといてくれたらいいから」

さらりと告げられた内容に反射的に虎徹の顔が上がる。

「はあ!?なんで俺が、」
「そういう契約だから」
「いや、俺聞いてないんスけど」
「聞いてないんじゃなくて、君が忘れてるだけなんだよ!」
「…!」

ロイズの目が嘘を言っているようには思えず、思わず隣のバーナビーを見る。
何とも形容しがたい複雑な表情を浮かべた彼に、虎徹はそれが事実だと思い知らされた。

「嫌なら辞めてもらってもかまわないんだよ」

とどめの一言に言葉が詰まる。
唇を噛み締めた虎徹は肩を竦めると「分かりました」と答え、ハンチング帽を被り直した。

「失礼します」

到底、納得など出来ない気持ちを押さえたまま部屋を出て廊下を足早に歩き出す。

「虎徹さん!」

慌てて後を追いかけてきたバーナビーが隣りに並び、二人は無言のまましばらく並んで歩き続けた。

「…虎徹さん。すいません」
「…なんでお前が謝んだよ」
「でも…」

あー、もう!と虎徹が立ち止まり、わしゃわしゃと帽子の上から頭をかく。

「そういう契約してたんだろ。お前が悪いわけじゃねぇよ」
「……」

ひとつ大きく息を吸い込んだ虎徹は、不安げにたたずむ若者を静かに見つめた。

「だけどよ、俺が記憶を無くした当事者だってのにどいつもこいつもお前のことばっか心配しやがって」

文句を言いつつも、その琥珀の瞳が優しい色を浮かべているのにバーナビーは戸惑う。

「お前、みんなに大事にされてんだな」
「…そんなこと」
「とにかく、俺とお前はコンビなんだろ?よろしく頼むぜ、相棒!」

屈託のない笑顔を向けられ、不意に泣きたい気持ちになったバーナビーは慌てて虎徹から目を逸らした。
彼はいつだって優しい。
たとえ、こんな風に記憶を失っても自分のことよりも他人を優先させるのだ。

だけど…。

「…あなただって大事にしてくれてました」
「バーナビー?」
「他の誰かなんてどうだっていいんです!僕は!」

僕は、と声を詰まらせるときびすを返してバーナビーは駆け出した。

「おい!バーナビー!」

呼び掛ける虎徹の声も無視して、ひたすら廊下を駆ける。
あのままだと自分は何を口走るか分からなかったから。
そうするしかなかったのだと自分に言い聞かせ、愛車に乗り込んだバーナビーが再び社に戻ることはなかった。




「なんなんだよ、あいつ…」

バーナビーの背中を見送った虎徹が困ったようにつぶやく。
不安なのは彼だけじゃないんだと言ってやりたかったが、去り際の表情を見て言葉は引っ込んだ。

(…また、泣きそうな顔で俺を見てんだもんな)

恐らく、己の失った記憶に関係があるのだろう。
何も覚えてないにもかかわらず、彼が悲しそうな顔をしていると胸の奥が痛む。

「多分、俺が悪いんだよな」

自嘲気味に口元を歪めた虎徹もまた、重い足取りで再び廊下を歩き始めた。










つづく
.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ