長編2

□シーソーゲーム9(R)
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「そりゃ、あんた。無神経過ぎるでしょ」
「なっ‥」
「まあ、ハンサムのこと忘れちゃってるんだし、仕方ないんでしょうけどね」

さもお気の毒様とでもいうように、ネイサンは肩を竦めて見せる。

「だから!俺のどこが間違ってんだよ?」

グッと両の拳を握り締め、キツい眼差しを向けると虎徹はネイサンに噛みついた。
苛立ちも露わな琥珀の瞳に眇められた彼は、珍しくその勢いにたじろぐ。

「あいつも、お前らも、俺の知らない何かを知ってる」
「それは…」
「何隠してんだよ?いったい俺とあいつはホントはどんな関係だったんだよ!」
「‥それはアタシの口からは言えないけど」

虎徹にまくし立てられて困り果てたネイサンの横から、不意にアントニオが口を挟んだ。

「言ってやれよ。こいつとバーナビーの関係について」
「ちょっと、アントニオ!」
「隠さずに教えてやればいいだろ。お前とバーナビーは恋人どうしでした、ってな」
「はあ!?」
「んもう!」

一瞬、何を言われたのか虎徹には理解できなかった。
いや、心のどこかでその可能性も考えていた気はする。
だが、そんなことはあるはすがないと頭から否定していた。

「な、な、」

混乱状態の虎徹に向かって、アントニオは再度、冷静な口調で話し掛ける。

「嘘じゃない。記憶を失う前のお前らは本当に恋人どうしだったんだ」

昔馴染みの親友の真摯な眼差しは、まっすぐに虎徹へと向けられている。
その瞳の色には嘘偽りなど感じられなかった。

「…マジかよ」

力なくうなだれた虎徹だったが、何となく納得していた。
まるで、欠けていたパズルのピースが見つかったような、そんな妙にスッキリとした気分だ。

「あら、あんまり驚かないのね」
「…十分驚いてるさ」
「その割に冷静じゃない」
「なんか…さ、あいつの今までの行動見てたらなる程なって納得しちまったんだよ。別に記憶を取り戻した訳じゃない」
「それってつまり、彼への同情?」

分かんねえよ、とつぶやいた虎徹は手元の焼酎を一気に煽った。

「でもさー、ひとつ言えんのは、」
「……」
「俺ってヒデー奴だよな」

懺悔のような呟きにネイサンがため息を吐く。

「今さらだ。記憶なくす前からお前はヒドい奴だったよ」

だから、心配するなと前を向いたままアントニオが言うのに「うっせー」と小さく悪態をついた虎徹は密かに見守ってくれていた彼らに心の中で感謝した。









−−その夜、寝床に入った虎徹は夢を見た。

夢の中で誰かが彼に、優しく囁きかけている。
そして、その肌を撫でるように指が這い回る。

(ん…‥)

胸の突起を舌で転がされると、ゾクリと全身が粟立った。
やがてチュッ、チュッとリップ音をたてながら下りてきた唇が虎徹のモノに口づける。

(あっ、く…!)

虎徹さん…と愛しげに名を呼ばれた瞬間、全身がカァッと熱くなった。

(…誰だ?)

この声にも、触れてくる指先や唇の感触にも覚えがある。
朧気な記憶を頼りに何かを思い出しかけていた虎徹はおもむろに性器を口に含まれ、駆け抜けた快感に背中をのけぞらせた。

(ああッ!や…)

無意識に伸ばした両手が柔らかな髪に触れる。

(だ…れだ?)

ぼやけた視界の先に、うっすらとした金色の光が見えた。
ゆっくりと唇が上下して、その度に金糸がフワフワと揺れ動く。

(まさか、バーナビー…?)

驚きに目を見張る虎徹に構わず、バーナビーは口に含んだ一物に刺激を与え続ける。
下肢から聞こえてくる音がいっそう興奮をかき立てて。

(ヒィッ!‥アッ、ヤバ…い)

先走りに濡れ始めたそれはイヤラシい水音を立てながら、次第に虎徹を絶頂へと誘い始めた。

『虎徹さん』

時々うわごとのように繰り返されるバーナビーの甘い囁きが、まともな思考力を奪ってゆく。

『虎徹さん…愛してます』

いつしか与えられる快楽のままに達した虎徹はガバッと勢いよく、ベッドの上で飛び起きた。
激しい虚脱感にハアハアと荒い息を吐く。

べっとりと濡れた下着の感触に、虎徹は思わず頭を抱え込んだ。

「…マジかよ」

本日、二度目の呟きは闇に消え、居心地の悪さだけが後に残る。

「いい年こいて、相棒の夢で夢精ってか…」

バーナビーと恋人どうしだったという話が事実ならば、今夜見た夢は夢ではなく、現実にあった出来事なのかもしれない。
これも忘れてしまった彼との記憶なのだろうか…。
混乱した気持ちを抱えたまま、虎徹は泣きたい気分になった。

「やっぱ最低だ…俺は」

−明日から、どんな顔をしてあいつに会えばいいんだろう?

隠し事の苦手な自分は、変に意識して再び彼を傷つけてしまうかもしれない。

「…つーか、なんで肝心なことは思い出せないんだよ!」

暗闇の中、落ちてゆく気持ちとは裏腹に高められた体だけが熱くて。
全身に残る彼の感触を振り払うべく、シャワーを浴びるために虎徹はベッドを後にした。










つづく

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