長編2

□シーソーゲーム11(R)
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あれから何とか仕事を終えた後、まっすぐ自宅へと帰る気にならなかった虎徹は久しぶりに酔いつぶれて帰宅した。
時刻は見なかったが、もうとっくに日付は変わっていたらしく、家の前は人通りも途絶え閑散としている。
呼び出しが掛からなくてよかったなと、少し酔いの冷めてきた頭で反省すると胸ポケットから自宅のキーを取り出す。
そこで、虎徹は玄関前に立つ人物にようやく気がついた。

「バーナビー…?」

いつからそこにいたのか、振り返ったバーナビーがホッとしたように頬を緩めた。

「遅かったですね。体は大丈夫ですか?」
「な…んで?」

昼間のことを忘れたくてわざわざ飲みに行ったというのに、これでは無駄足ではないか。
そんな心情が顔に表れていたのだろう。
バーナビーは苦笑いを浮かべて言葉を続けた。

「取材の後、顔色がよくなかったので気になってたんです」
「…んな心配いらねーよ。俺は大丈夫だ」
「そう言うとは思ったんですけどね」

それより彼女とはどうだったんだ、とか他に聞くことはあるのだろうが今の虎徹はそんな気分になれなくて。
ただ黙って、玄関の鍵穴にキーを差し込む。

「じゃ、僕はこれで。おやすみなさい、虎徹さん」
「えっ?」

意外にもあっさりときびすを返したバーナビーの背中を、虎徹の視線が慌てて追った。

「バーナビー!」
「はい?」
「その、ちょっと俺んち寄ってかないか?」

驚いたように見開かれたバーナビーの瞳がゆっくりと細められる。

「…すいません。今はちょっと」
「なんで?」
「しばらくあなたとは距離を置こうと思うんです。あなたの記憶が戻るまでの間ですけど」

さすがに今はツラいんで、と絞り出された言葉に嘘偽りはなくて、虎徹は唇を噛み締めた。

「俺のせい、なんだよな」
「…虎徹さん?」
「アントニオから聞いた。俺達のこと…その、俺達が恋人同士だったってことをさ、」

口ごもりながらもバーナビーから目を逸らさずにそう言うと、虎徹は頬を赤らめる。

「そう、ですか…。だから今朝から様子がおかしかったんですね」
「う…」
「なら、なおさら僕に近づかないで下さい。同情されるのはもっとツラい」
「ち、ちがう!それは、」

表情を消したバーナビーが、突然ハッとしたように再び目を見開いた。

「虎徹さん、あなた泣いて…?」
「俺だってツラいんだ」

目の前に立つ虎徹の瞳からポロポロと零れ落ちる涙。
戸惑うバーナビーに向かって虎徹は必死に訴えかける。

「お、俺だって思い出せないのがツラくてたまんねえ」
「…でも、こんな男同士でなんてあなただって、」
「イヤじゃなかった!そう言われて驚いたけど、イヤじゃなかったんだ。ああ、そうだったんだって納得できた。それよりも…」
「……」
「お前に避けられたり拒絶された時の方が胸が痛くて、苦しかった」

スンと鼻を啜る虎徹はまだ酔いが冷めきっていないのだろう。
不安定に揺れる体を抱き抱えたバーナビーは「中へ入りましょう」と彼を促した。



バタンとドアを閉めるとリビングまで移動し、虎徹をソファに座らせる。

「お前、彼女と見合いするなんて言うしさ。俺もう、どうしていいか分かんねーよ…」

酔っ払いの戯言なのか、言いたい放題の虎徹をよそにバーナビーはキッチンで水を汲んでくると、そのコップを差し出した。

「どうぞ、水です」
「ん、…ありがとな」

手渡されたコップの水を飲み干すと、虎徹の体はソファに深く沈み込んだ。

「あのさあ…」
「何です?」

仕方なく隣に腰を下ろしたバーナビーに虎徹が話しかける。

「俺達、その、付き合ってたんだよな」
「ええ…」
「やっぱ俺は抱かれる方だったわけ?」
「もちろんです」

予想通りの答えに虎徹の口からフーッと深いため息が出る。

「虎徹さん、あなただいぶ悪酔いしてますね」

呆れたようにバーナビーもまた、ため息をつくと肩を竦めた。

「なあ、ほんとにお前、こんなオジサン相手に勃ったわけ?」
「はあ!?そんなこと言って僕を煽るのはやめて下さい」
「いや、俺は真面目に聞いてんだけど…」

虎徹に視線を向けると、彼は茶化すでもなく真剣な表情で天井を見上げている。
その横顔を見ているうちにバーナビーはなけなしの理性が崩れ去ってゆくのを感じていた。

「…試してみます?」
「えっ?」
「これでも僕、かなり我慢してるんですよ」

バーナビーが口元を上げ、体を密着させると虎徹の喉がゴクリと鳴った。

「本音を言うと、今だってあなたに触れたくてたまらない」
「バーナビ…うっ…ん」

自慢の特徴的な髭をするリと撫でながら顎を持ち上げ、静かに唇を重ねる。
わずかに眉を寄せ、目を閉じた虎徹の抵抗がないのをいいことにバーナビーはそのまま舌を侵入させ、口内を蹂躙した。

「んッ、ふ…ん」

逃げる舌を追いかけ、ねっとりと絡ませると次第に虎徹の顔が紅潮し始める。

「ん…んん…ッ!」

やがて、キスだけで骨抜きになった体はバーナビーの方へと傾く。

「ほら、虎徹さん。僕の、勃ってるの分かります?」
「…ッ!」

太腿に押し当てられた熱の固さに虎徹の全身がカッと熱くなった。

「もう、嫌だって言ってもやめませんからね」
「…言わねーよ」

俺だって、といきなり抱きついてきた虎徹をソファに押し倒すと、バーナビーはもう一度彼に口づけた。


「あぁ…はっ…」

散々慣らした後に挿入すると、もう歯止めが利かなかった。
大きく開かせた足を抱え、深く、深く中を穿つ。

「…んッ、くぅ…」

熱い楔で最奥を抉る度に、虎徹は背を仰け反らせ掠れた悲鳴をあげた。

「虎徹さん…んっ!」
「あ、あ!バー…ナビー…ッ…」

一際高い嬌声をあげた虎徹が白濁をまき散らすと、バーナビーもまた彼の中に欲望を吐き出した。



心地よい脱力感と一体感に虎徹が恍惚とした表情を浮かべる。
酔いも手伝って、眠りに誘われ始めた彼に向かってバーナビーは優しく笑いかけた。

「もう一度、やり直しませんか?」

甘い囁きに、それも悪くないなと思いながら虎徹はやがて眠りについた。










つづく

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