長編2

□シーソーゲーム13
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トランスポーターでヒーロースーツに着替え、現場に到着した彼らを中継車からアニエスが出迎える。
他のヒーロー達も次々に姿を見せ始めると、辺りは騒然とした緊迫感に包まれた。
シュテルンビルト駅周辺の幹線道路は封鎖され、近隣の住民の避難はすでに警察の手によって完了している。
後は、ヒーロー達により安全かつ速やかに爆弾処理を行うだけだ。

「爆破まであと15分、それまでに犯人の仕掛けた爆弾を探さないと…」

アニエスの言葉にバーナビーが首を傾げた。

「どのモノレールに仕掛けられたか特定は出来てるんですね」
「ええ、指定時刻にシュテルンビルト駅に到着するモノレールまでは割り出せたんだけど…」

顎に手を当て、言葉を濁すアニエスに焦れたように虎徹が叫ぶ。

「ああ、もう!だったら、そいつを止めて乗客避難させてから爆弾探せばいいだろーが!」
「それが出来たら、とっくにやってるわよ!」

苛立ちも露わにアニエスは大きな溜め息を吐いた。

「アタシ達が呼ばれたってことは、事態はそんなに簡単じゃないって事ね」

冷静な口調でネイサンが問い掛ける。

「…モノレールは止められないの」
「どういうこと?」
「爆弾には細工がしてあって、ある一定の振動が与えられないと起爆装置が働いて爆発する仕掛けらしいのよ。さっき犯人からそう、通告があったわ」
「それって、モノレールを止めたら爆弾が作動するってこと?」

そういうこと、とアニエスが再び溜め息を吐いた。

「しかも犯人の目的が分からない上に、仕掛けられたものが時限爆弾とは限らない。もしも、遠隔操作が可能だとしたら…」
「こちらの出方によっては犯行予告の時間を待たずにモノレールを爆破させるかもしれない」
「ええ、そうなると最悪ね」

バーナビーの冷静な分析にその場にいた者は皆、息を飲んで固まった。
自分達の行動が逆に犯人を刺激し、市民を危険な目に合わせるかもしれない。
勢い込んで救助に出向いて来たはずの彼らは一様に戸惑いの表情を浮かべた。

そうしている間にも時間は刻々と過ぎてゆく。
ハアーと呆れたように頭を掻きながら、虎徹が歩み出ると一斉に皆の注目が集まった。

「ここでグダグダやってても仕方ねーだろ。とにかく、爆弾見つけんのが先決だ」

虎徹の力強い言葉にヒーロー達が頷く。
それを見て、虎徹は視線をキースへ向けた。

「スカイハイ、お前は空からモノレールに乗ってる乗客をできるだけ早く避難させてくれ」
「分かった。任せてくれ!」

言うやいなや、キースが真っすぐに空へと飛び立つ。
残った仲間を振り返り、虎徹は話を続けた。

「んで、爆弾は俺とバーナビーで何とかするから、あとの皆は待機しててくれ」
「アタシ達も一緒に探すわよ」
「そうだぞ、お前らだけを危険な目に合わせるわけには…」
「聞いてくれ。下手すりゃ、すぐ側で爆弾がドカンと爆発するかもしれないんだぞ」

脅しでないリアルな状況にネイサンとアントニオは押し黙る。
年少組もまた、顔色を失ったまま黙り込んだ。

「俺とバーナビーにはいざとなりゃ、ハンドレッドパワーがある。だが、お前らの能力じゃ危険過ぎる」
「でも…」
「なあに、心配いらねーって」
「……」
「俺達を信じてくれ」

虎徹の言葉に、成り行きを見守っていたバーナビーの口元がうっすらと笑みを浮かべた。

「…分かった。あんた達に任せるわ」
「タイガー…気をつけて」
「頼んだぞ、二人とも」
「頼むでござる」
「タイガーさん、バーナビーさん、がんばってね」
「おう、援護は頼んだぜ!」

明るく右手を上げた虎徹が振り返る。
自分に向けられた彼からの信頼に応えるように、バーナビーはただ黙って頷いた。

「って事で、アニエス、俺とバーナビーを乗せてすぐにヘリを飛ばしてくれ」
「こっちはいつでもOKよ!」

すでに撮影準備のため待機していたヘリに乗り込んだ二人は静かにフェイスマスクを下ろした。

「悪りぃな、お前まで巻き込んじまって」

申し訳無さそうに掛けられた声にバーナビーはいえ、と首を振る。

「あなたにしては上出来ですよ」
「なに、それ。ほめてんの?」
「もちろん。それに、あなたがダメだって言っても僕も一緒に行くつもりでしたから」
「…バカだなあ、お前」
「あなたほどじゃありません」

まるで緊張感を感じさせない二人のやり取りに、ヒーローTVスタッフの間にも軽い笑いが起こる。

「さあ、二人とも頼んだわよ!」

アニエスの掛け声に立ち上がった二人は眼下に見えるモノレールに向かって、身体を踊らせた。


窓ガラスを蹴破り車内に 入ると、かなりの数の乗客はキースによって救助されていた。

「どうします?もう、あまり時間は残されていませんが」
「とりあえず、残りの乗客を後ろの車両に移動させてくれ。最悪の場合、こいつを切り離せばいい」
「爆弾が前にあればの話ですがね」
「爆弾は前の車両だ」
「…!」
「俺の勘だけどな」

恐らく、フェイスマスクの下で虎徹はニヤリと笑っているのだろう。
肩を竦めたバーナビーがすぐさま行動に移るのを見届けて、虎徹もまた爆弾を探し始めた。

確かに、バーナビーの言うように残り時間は後わずかだ。

(しゃーねーな…)

気合いを込めると虎徹の体は青白く発光を始めた。
能力発動させた彼はそのまま目を閉じ、意識を耳に集中させる。
車内のざわめき、乗客の悲痛な声、モノレールの走る音に混じってカチカチというぜんまい時計のような音が聞こえてくる。

(こいつだ!)

虎徹は音源に向かって駆け出すと、一番前の無人のコントロール室のドアをぶち破った。
ガタンガタンと揺れる床の死角に取り付けられた小型爆弾を見つけて、思いっきり声を張り上げる。

「あったぞ!バーナビー!」

その時すでに、犯人が指定した爆破時刻まで、あと5分を切っていた。









つづく

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