長編2

□シーソーゲーム14
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虎徹の呼び声にすぐに駆け付けたバーナビーだったが、小型爆弾を見るなり顔色を変えた。

「時限爆弾か…。遠隔操作の可能性はなさそうですね」
「で、こっからどうする?」
「…一応、解除を試みますが僕の手には負えないかもしれません」

難しい表情で答えた彼にそうか、と虎徹が呟く。

「そっちは頼んだぞ」

言うなり、虎徹は後部車両に向かって走り出した。

「虎徹さん?」
「俺は後ろの車両を切り離してくる!」
「分かりました!」

バーナビーはしゃがみ込むとすぐさま爆弾の解体に取りかかる。
そして虎徹もまた、正義の壊し屋の名に相応しい働きで、後部車両の切り離しに成功したのだった。



「アニエス、爆弾は見つかった。見つけた場所が前の車両だったんでちっとばかし荒っぽい手使っちまったけど、市民の安全のためだから仕方ねーよな」
「今回は特別よ。番組としても派手な方が盛り上がるもの」
「ったく、後で賠償請求なんてやだぜ」
「で、起爆装置は解除出来たの?」
「今、隣で相棒が頑張ってるよ」

報告を終え、いったん通信を切った虎徹はバーナビーを覗き込んだ。

「どうだ?いけそうか?」
「ダメだ、時間が足りない…くそっ!」
「どうする!このままじゃ、駅に突っ込んだ途端に爆発しちまうぞ!」
「分かってます!でも、もう避難しないと僕達も危険です!」
「くッ!」

すでにシュテルンビルト駅は目の前に迫っており、爆発までもう1分を切っている。
いくら二人がハンドレッドパワーの持ち主だからと言って、至近距離で爆発を食らって無傷というわけにもいくまい。

しかし、例え周辺の住民の避難も完了し、無人のモノレールだから人命を損なわないと言ってもあの巨大な駅で爆発すればその被害は甚大だ。

どうすれば…。

「虎徹さん!」

その時、虎徹の脳裏にある一場面が蘇った。
デジャヴのように鮮やかに映し出されたその記憶の中には、今と同じく隣にバーナビーがいる。

(ああ、あの時はどうしたんだっけ?)

「虎徹さん!もう、時間が!」

叫ぶバーナビーと目が合った瞬間、虎徹の頭に「上」という単語が閃いた。

「上だ!バニー!」
「ッ!」

叫んだと同時に天井を突き破り、風穴を開ける。
すると瞬時に虎徹の意図をくみ取ったバーナビーが能力を発動し、爆弾を勢いよく上空へと蹴り上げた。

やがて、ドオォーン!!と激しい爆音と衝撃を撒き散らし、はるか上空で小型爆弾は爆発した。

「ぐぅっ!」

モノレールから飛び出した虎徹の体が爆風に煽られ、バランスを崩す。
受け身を取ったものの先に能力発動した虎徹はすでに活動時間のタイムリミットを越えており、まともに爆風を受ければ衝撃はかなりのはずだ。

「虎徹さん!」

バーナビーも慌てて後を追うように飛び出すと、虎徹に向かって手を伸ばす。
空中に放り出された虎徹をようやく掴まえた彼は、その体を大事そうに横抱きのまま強く、強く、抱き締めたのだった。

「大丈夫かい?二人とも!」

落下速度が不意に緩やかになり、ふわりと宙を舞う感覚に目を開いた虎徹はキースに右手で合図を送る。
そして、次にバーナビーを見た。
心配そうに自分を見つめる彼の顔がマスク越しにでも見えるようだ。

「大丈夫ですか?」
「‥なんとかな。ちょっと耳がイかれてるけど」
「一応、病院行って下さいね」
「…へいへい」

やがてキースの風でゆっくりと地上に降り立った二人を歓声が包み込んだ。

『やりました!タイガー&バーナビーの二人が見事、市民の命とシュテルンビルト駅を守りました!!』

叫ぶような実況の声に一段と歓声が大きくなる。

『素晴らしいコンビプレイです!!』

「‥おい、そろそろ降ろしてくれよ。バニー」

お姫様抱っこのまま、離そうとしないバーナビーに虎徹が身じろいだ。

「あ、すいません、今‥って‥え?」
「ありがとな、助けてくれて」

フェイスマスクを上げた虎徹は笑顔でバーナビーを見つめている。

「虎徹さん‥?僕が分かるんですか?」
「待たせたな、バニーちゃん」

大嫌いだったはずのこの愛称で再び彼に呼ばれる日を、自分はこんなにも待ち望んでいたのだとバーナビーは今初めて気づいた。
そしてフェイスマスクを跳ね上げ、虎徹さん!と叫んだきり泣きそうな顔で見つめ返してきた相棒を、虎徹はただ黙って抱き締めた。





念のため、病院で検査を受けることになった虎徹にはネイサンが付き添った。
バーナビーは逸る気持ちを抑えて、虎徹の分も取材を受けている。
やがて一通りのインタビューを終えると足早にトランスポーターへと向かう彼をアニエスが呼び止めた。

「まるで、デビュー当時の爆弾事件の再現のようね」
「…そうですね。すいません、モノレールを派手に壊してしまって」
「シュテルンビルト駅を巻き込むよりはまだマシだけど」

アニエスは肩を竦めて、唇の端を上げる。

「タイガーの記憶も戻ったみたいだし、またあなた達の活躍を期待してるわ」
「ええ、もちろん。必ず期待に応えて見せますよ」

自信たっぷりにそう告げたバーナビーは、今度こそトランスポーターに姿を消した。




「こっちよ!ハンサム」

病院に到着したバーナビーが声の方を見ると、同じく私服に着替えたネイサンが手を振っていた。
すっかり馴染みになった待合室の廊下の長イスに二人並んで座る。

「結局、タイガーの記憶って一週間近くも戻らなかったのね」
「…ええ、そうですね」

バーナビーにとってはまるで、永遠のように感じられた長い一週間だった。
物思いに耽る彼に向かってネイサンが「ねえ」と話しかける。

「いいこと教えてあげましょうか?」
「何です?」
「例のタイガーが受けたNEXTの能力なんだけど、あれって普通は長くても2〜3日しか保たないんですって」

意外な内容にバーナビーが目を見開く。

「でも、虎徹さんは…」
「ただし、その相手が自分にとって大事な存在であればあるほど、記憶を取り戻すのに時間がかかるんですってよ」

言い終えてからネイサンはニヤリと笑ってみせた。

「厄介な能力よね、まったく」
「……ええ」
「下手したら、一生戻んなかったかもしれないわ。よかったわね、記憶を取り戻せて」

からかい半分、いたわり半分のネイサンの言葉にバーナビーは静かに口を開く。

「もし…」

その真摯な響きにネイサンは、真面目な表情で彼に視線を向けた。

「もし、虎徹さんの記憶が戻らなかったとしても、僕らはまた一からやり直すつもりでした」
「僕ら…ねぇ」

少し羨望の色を滲ませてネイサンが呟いた時、廊下の向こうから虎徹の呼ぶ声が聞こえてきた。

「おーい、バニー!」

手を振る虎徹の元へとバーナビーが駆け出す。

「今行きます!虎徹さん」

溢れんばかりの笑みをたたえて走り去る若きキング・オブ・ヒーロー。
そのたくましい後ろ姿を見送りながら、ネイサンは一言「ごちそうさま」と呟いた。















おわり


長らくお付き合い頂き、ありがとうございました!

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