長編2

□NOT FOUND2
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大人しく男の指示に従いホールドアップしたまま、バーナビーは虎徹の方へと体を傾けた。

「ほら、あなたやっぱり厄介事に巻き込まれてるじゃありませんか。だからほっとけないんです」
「いや、これ俺のせいかよ!?」

掛け合いを続ける二人を見て、拳銃を構えた男がカウンターの外へと姿を現す。
その照準は二人の間を行ったり来たりしていた。

「‥虎徹さん、あの男、もしかして例の強盗犯じゃ」
「あの銀行ばっか狙うっていう連続銀行強盗犯か?」

最近、シュテルンメダイユ地区では主要な銀行を狙った銀行強盗が連続して起きていた。
拳銃で銀行員を脅し金を奪い去る、といういたってシンプルな犯行にもかかわらず、いまだ犯人の特定には至っていない。
警察も躍起になって捜査しているようだったが一向に解決へと結びつかない現状に、先日ヒーローTVに協力要請のお達しが来たばかりだ。

「ええ、多分」

虎徹からの確認にバーナビーが頷く。

「そこの二人!お喋りは止めろ!」

ヒソヒソと囁き合う様子を見て、男は天井に向け銃弾を撃ち放った。
威嚇射撃だったが、たちまち恐怖に刈られた人々の叫びで銀行内はパニック状態に陥った。

「くそ!まずいな」
「仕方ない。行きますよ、虎徹さん!」
「オッケー、バニー!」

瞬時に能力発動した二人の体が青白く発光し、銃を構える男の元へと走り出す。

「なっ!?」

一瞬の出来事に戸惑う男の手から虎徹が拳銃を叩き落とすと、すかさずバーナビーが後ろ手に拘束し彼らはあっという間に強盗犯を確保した。

「お、お前ら、もしかしてヒーローか?」
「だったらどうだと言うんです?すいませんが、誰か警察に連絡をお願いします」

警察、という単語に体を竦ませた男の目出し帽をはぎ取ると、穏やかそうな中年男が現れた。
もっと凶悪な人相を想像していた二人は少々面食らいながらも、行員から手渡されたロープで逃げられないよう体を縛る。

「あの、タイガー&バーナビーのお二人ですよね?警察への連絡はもう済んでます。もうすぐここへ駆けつけるそうです」
「分かりました。ありがとう」

バーナビーがニコリと笑うと女性行員のため息がそこかしこから漏れ、虎徹は拗ねたように口を尖らせた。

「なあ!頼む!」
「ああ?なんだ?」

すると、不意に男が虎徹に呼び掛けた。
懇願するような口調にもその顔つきにも焦りが滲んでおり、思わず虎徹も問い返す。

「必ず自首するから、少し俺に時間をくれないか?」
「はあ?お前なあ、今さら何言って‥」
「病院に行きたいんだ!用が済めば、必ず自首する。だから‥」

どうせ、本当はここが最後で明日には自首するつもりだったのだという男の告白に、虎徹とバーナビーは顔を見合わせた。

「‥病院には誰がいるんだ?」
「こて、タイガーさん!」

咎めるバーナビーの声を無視し、虎徹は男の目をじっとのぞき込んだ。
男もまた、必死な面もちで虎徹を見つめ返す。

「‥妻が、入院している」
「‥っ!?」

そう言ったきり言葉を詰まらせた男は黙って俯いた。
男を見る虎徹の顔が苦渋に歪むのを苦々しい思いでバーナビーは見た。

「なら、何でこんな馬鹿なことしでかしたんだ?」
「…あんたらに話しても仕方のないことだ。どうせ、誰にも分かってもらおうなんて思っちゃいない」

自棄になった男が吐き捨てるようにそう呟く。
ほどなく、パトカーのサイレンの音が近づいてきて男はハッと顔を上げた。

「ちくしょーッ!!」

大声を上げ、暴れ出した犯人を取り押さえるバーナビーの手に突然、虎徹の手が掛けられた。

「タイガーさん?」
「なあ、バニー、俺が一緒についてくからこいつを病院に連れてっちゃダメか?」
「何言ってるんですか?そんなのどうせ、口から出任せに決まってるでしょう?」
「だけど、俺にはこいつが嘘を言ってるようには見えないんだ」

必死に食い下がる虎徹をバーナビーは冷徹に突き放す。

「たとえそれが事実だとしても、犯した罪は罪です」
「…そんなの、俺だって分かってる」
「罪は償わなければなりません」

目を見開いた虎徹はバーナビーを睨みつけ、唇を噛み締めた。
バーナビーの言うことは正論だ。
だが同じヒーローでありながら、虎徹の目指す正義とバーナビーの目指す正義がこれほどまでにかけ離れていた事実に虎徹は少なからずショックを受けていた。

「そして、僕たちヒーローの仕事は犯罪者の確保です。違いますか?」
「…お前、本当にそう思ってんのか?」
「何もかも救おうなんてあなたの考えは甘いんです」

銀行の入り口から警察官が突入してきて、辺りが騒然となる。
遠巻きに見守っていた行員達が一様にホッとした表情を浮かべるのとは対照的に、警察官に引き渡された犯人の男は呆然と足元を見つめていた。
引きずられるように連行される男の背中を、虎徹は釈然としない思いで見送った。

「ありがとうございました!」

店長らしき男性が歩み寄り、二人に向かって頭を下げる。

「いえ、僕らは当然のことをしたまでです。ねえ、タイガーさん?」
「え?あ、ああ‥そうです」

バーナビーに話を振られた虎徹は上の空で答えながら、帽子のつばを引き下ろし表情を隠した。
言葉を発すれば胸の中にくすぶるわだかまりが飛び出しそうで、らしくなく虎徹は口を噤んで黙り込んだ。

「‥悪い。俺、先に帰ってロイズさんに事情説明してくるわ」
「タイガーさん?」
「警察への事情聴取は頼む」
「‥分かりました」

有無を言わさぬ口振りでそう言うと、バーナビーを振り返りもせずに重い足取りで銀行を後にする。
外に出た途端、聞こえてきたパトカーのサイレンが虎徹の心を更に深く抉りながら遠ざかって行った。










つづく

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