長編2

□NOT FOUND3
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警察への説明を済ませ、アポロンメディア社に戻ったバーナビーはオフィスへと直行する。
だがしかし、そこに虎徹の姿は見当たらなかった。

「あの、虎徹さんはまだロイズさんの所にいるんですか?」

黙々と仕事を続ける経理の女史に尋ねると、彼女は呆れたように肩を竦めた。

「昼休みにあなたと出てったきり、まだ戻ってませんけど」
「えっ?」
「とっくに昼休みは終わってるってのにいいご身分ですよ、まったく」

嫌みを込めた口振りでジロリと見られて慌ててバーナビーが弁解する。

「すいません、サボるつもりはなかったんです。ちょっと出先で事件に巻き込まれてしまって…」

バーナビーの弁明に彼女は「ああ」と納得したようだった。

「あなたも大変ね。あんな厄介な相棒を持って」
「はあ…」

気の毒にと言わんばかりの視線に、周囲の虎徹に対する評価が見えるようだ。
本人が聞いたらきっと、憤慨するに違いないが。

「連絡は入ってると思いますが、一応僕の方からも事件の報告をしたいんでちょっと席を外します」
「ロイズさんとこね」
「はい。では、失礼します」

再びデスクワーク作業に戻った女史に挨拶をして、バーナビーは部屋を出た。
その足で今度はロイズの部屋へと向かう。
分厚い扉をノックすれば中から上司の話し声がした。

(虎徹さんがいるんだろうか?)

「バーナビーです。入ってもいいですか?」
「ああ、バーナビーくんか。入りたまえ」
「失礼します」

ドアを開け、中に入ったバーナビーの予想を裏切り、ここにも虎徹はいなかった。

「虎徹くんから話は聞いてるよ。それと、今ヒーローTVから電話があってね。昼間の銀行強盗事件のインタビューを取りたいそうだ」
「僕は構いませんが…あの、虎徹さんは?」
「ああ、インタビューは君一人でお願いするよ。彼は何やら急用とやらで早退してしまったんだ」
「帰ったんですか?」

思わず声を荒げたバーナビーに、ロイズも神妙な顔つきで答える。

「真面目な顔で頼むもんだから、大事な用かと思ったんだが。君も理由を 知らないのかね?」
「はい…」
「てっきり君には話してると思ってたよ」
「僕も何も聞いてません」
「相変わらず、つかめない男だ」

肩を竦めてみせると、ロイズはバーナビーに向き直った。

「とにかく、一時間後に取材が来るから準備しておいてくれるかな」
「…分かりました」


結局、ヒーローTVの取材とインタビュー撮影を終え、帰宅する時間になっても虎徹からバーナビーに連絡が入ることはなかった。






自宅に戻ったバーナビーはリクライニングチェアに腰掛けると、昼間の虎徹の様子を思い返していた。
虎徹の態度がおかしくなったのはあの事件からだ。
何がまずかったのだろうか?
自分は何か、彼の気に障ることをしたか、言ったのだろうか?

事件直後は気分が高揚していて気付かなかったことがあるかもしれないと、自問自答を繰り返す。

「あっ」

不意にあるキーワードに引っ掛かり、バーナビーは小さく叫んだ。

(男は病院に行きたいと言っていた…それも、入院中の妻に会うために)

『病院、そして入院中の妻』

なぜ、もっと早く気付かなかったのだろう。
常日頃、仕事に私情を挟まない虎徹の心をあれほど乱した原因に、なぜ思い至らなかったのかとバーナビーは悔やんだ。

(虎徹さんはあの男に過去の自分を思い重ねていたんだ)

妻を失った彼の苦しみを理解し、共に乗り越えたとばかり思い込んでいた。
だが、心の痛みがそう簡単に消えるはずはないのだ。
何より自分が体験し、分かっていたはずなのに。
男に向けられていた悲痛な顔を思い出し、バーナビーはたまらず携帯電話を取り出した。
虎徹の携帯への短縮ダイヤルを押しながら何を話せばいいかと考える。

単調な機械音がして、やがてそれがプツッと途切れた。

「もしもし、虎徹さん?」
『ただいま電話に出ることが出来ません。ピーッという発信音の後にお名前とご用件をお話下さい』

問いかけに返ってきたのは留守番電話サービスの案内ガイダンスだった。
ガッカリしながらも気を取り直して一つ深呼吸する。
そして、バーナビーは電話の向こうの相手へとゆっくりと語りかけた。

「虎徹さん、バーナビーです。話したいことがあるので電話をくれませんか?連絡をお待ちしています」

話し終え、通話を切るとため息が漏れた。
ただ留守番電話にメッセージを入れるだけなのに、こんなにも緊張している自分に笑いが込み上げてくる。

「あなたを失いたくないんです。虎徹さん…」

自嘲の笑みを浮かべながら、バーナビーはしばらく携帯の画面を見つめていた。

「あなたがいなくなったら、僕はどうしていいか分からない…」




しかしその日、どれだけ待っても虎徹からの返事は来ず、バーナビーは不安な気持ちのまま一睡も出来ずに夜を過ごしたのだった。








つづく
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