短編2

□ラブコール
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ヒーローなんて仕事をしてると時々、ヘマをすることもある。
今回がそうで、珍しく着地に失敗した上に肋骨をちっとばかしやっちまって斎藤さんを盛大に落ち込ませた。
大したことはないと誤魔化そうとしたが、目ざとい俺の相棒は見逃してはくれなかったわけで。

せめて1日だけでもと強制入院させられ、現在俺は病院の個室のベッドの上だ。

「こんなの、いつものことなんだけどな」

ボヤいてはみたものの、寝返りを打った際にズキリと痛んだ右胸に心配そうなバニーの顔が思い浮かんだ。

(まあ、明日には何が何でも帰ってやるけど)

こうして、大嫌いな病院のベッドで一晩過ごすのも半ばアイツのため。
一度死にかけた俺はアイツのあの、不安げな瞳に弱い。

「バニーちゃんが心配するもんな」

…結局は惚れた弱みってやつ?

窓の外に目をやると、日は落ち辺りはすっかり暗くなっていた。
アイツ、ちゃんと寝れてんのかな。

ブーッ、ブーッ。

「だっ!?」

マナーモードにしていたはずの携帯がいきなり振動を始め、驚いた拍子に胸を走った激痛に俺は息を飲んだ。

「…ッ…」

携帯画面の着信表示を確認する。
そこに点滅していたのは…。

「…ってて。たく、バニーちゃんはよぉ」

まるで、こちらの思いが伝わったかのようなタイミングに苦笑が漏れた。

「もしもーし、オジサンでーす」

いつもの調子で電話に出ると、受話器越しに相手の困惑が伝わってくる。

『…ずいぶん元気そうですね』
「おうよ。丈夫なのが俺の取り柄だからな、ってことで明日には帰るからよろしく頼むぜ」

自分から無理やり入院させたくせに、俺がそう言ってもバニーは何も言わなかった。

『…虎徹さん』
「ん?」
『会いたいです』
「うん、俺も会いたいなあ」

明日には会えるのに、短いやり取りを数度繰り返した後にようやく俺達は電話を切った。

「あっ!」

切ってから、すぐに俺は大事なことを思い出す。
直後に再び、バニーからのラブコール。

(なんだ、アイツも忘れてたことに気づいたのかよ)

笑いながら俺は、愛しのバニーちゃんに「おやすみ」を言うためにもう一度、携帯電話に手を伸ばした。







※マジ早く帰りたい…


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