短編2
□シャドウ・ゲーム
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マーベリック事件解決後、再びワイルドタイガーと共にヒーロー界に復帰していたバーナビー・ブルックスJr.が忽然と姿を消した。
所属するアポロンメディア社にもヒーロー仲間にも、コンビを組んでいる虎徹にさえ理由も告げずに…。
時は3週間前に遡る。
その頃、シュテルンメダイユ地区では主要な銀行や要人の宿泊する高級ホテルを狙った爆弾テロが相次いでいた。
遠隔操作が可能な高性能小型爆弾により、銀行のトップや企業のCEOが何人も犠牲になり、ヒーロー達もまたその対応に追われている。
普通、テロの場合、犯人からの犯行声明や何らかの政治的要求といったものがあるものだが、それらが一切なく、警察も捜査に行き詰まりつつある。
犯行の動機も目的も一切不明な事件の連続に市民の間には不安が広がり、関係者一同にも焦りの色が見え始めていた。
「いったい、犯人の目的は何なんでしょうね?」
その日も事件の後処理に追われながら、バーナビーは首を傾げた。
「さあな。難しいことは俺には分かんねーよ、ッとっと!」
崩れた建物の瓦礫に足を取られた虎徹がバランスを崩す。
瞬間、尻もちをついた彼の頭上を空気が切り裂いた。
「ッ!」
それはほんのわずかな変化だったが、バーナビーは見逃さなかった。
(銃撃か!?)
軌道線上に視線を走らせ、近くのビルに人影を見つけると勢いをつけて跳躍する。
「おい!バニー!」
驚いたような虎徹の声を無視し、逃げる人物の後を追う。
(今の男、明らかに虎徹さんを狙っていた…)
しかし、バーナビーの追跡もむなしく男は気配を断ち、姿を消した。
「どうかしたのか?」
慌てて追いかけてきた虎徹に、「いえ、何でもありません」そう答えながらバーナビーは空を睨む。
「何でもないって…お前、急に走り出すからビックリすんじゃねえか」
「ちょっと気になることがあったんですけど、僕の気のせいだったみたいです」
「…そうか、ならいいけど」
暗く淀んだ空を見上げたバーナビーはひどい胸騒ぎに眉を寄せるのだった。
バーナビーが見知らぬ人物から招待を受けたのは、それから3日後のことだった。
『ウロボロスの秘密を知っている。教えて欲しければ指定の場所に来い』
差出人不明の手紙というオーソドックスな方法で接触を図ってきた相手に心当たりなどない。
だが、バーナビーに拒む権利は与えられてはいなかった。
なぜなら、その文面には続きがあったのだ。
『来なければ、大事なものを傷つける』
大事なものが何かは書いていなかったがバーナビーにはピンときた。
「…あれは警告だったのか」
唇を噛み、手紙を握り潰した彼は上着を掴むと足早に部屋を出る。
乱暴に愛車のエンジンをふかして指定場所へと急ぐバーナビーは、ひどく動揺している自分にチッと小さく舌打ちをした。
バーナビーがホテルのロビーに足を踏み入れた途端、見知らぬ男が近づいてきた。
短く切り揃えられた黒髪は漆黒の闇を思わせ、纏う空気はナイフのような鋭さを感じさせる。
男の全身から放たれる殺気に近い感覚にバーナビーはハッと気づいた。
「お前、こないだの…」
「気づいて頂けましたか?」
「…何が狙いだ?」
咄嗟に身構えるバーナビーに笑いかけた彼は、うやうやしくお辞儀をして見せた。
「我が主がお待ちです。さあ、こちらへ」
「……」
「大事なものを守りたければ大人しくついてくることです」
言うなり、目の前の男は振り返りもせずに歩き始める。
できるだけポーカーフェイスを装い、バーナビーもまたその後に続いた。
「…賢明な選択です」
「最初から僕に拒否権などないくせに」
悔し紛れに呟かれた一言に、男はニヤリと口元を歪めた。
※ホームズの映画に興奮して兎虎でやりたい!と勢いだけで書いたやつ(笑)
かなり前に書いたものなので時期外れですいませんf^_^;
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