短編2

□共依存
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「結局俺はヒーローっていう存在に依存してるだけなのかな…」
「は?いきなり何を言い出すんです?」
「いや、こっちの話。独り言だから気にすんな」

バーナビーの家のリクライニングチェアを占領したまま、虎徹はぼんやり正面のテレビへと目を向けた。
ちょうど番組が切り替わる時間帯だったらしく、画面の中ではニュースが始まっている。

「あ…」

思わず間抜けな声が出たのは、「アポロンメディア社に新オーナーが就任」という話題がトップニュースとして流れたからだ。

「この人、かなりのやり手らしいですね」
「…ふーん」

いつの間にか隣で同じようにテレビ画面を見ていたバーナビーが呟く。その声は硬い。
恐らく彼もこれから自分達の身に起こりうる変革を予想して、警戒しているのだろう。
…もっとも、もうすでに虎徹の身にはひと波乱起きているのだが、バーナビーはまだそのことを知らない。

「これからは、何もかも今まで通りってわけにはいかないでしょうね」
「…だろうな」

相槌を打ちながら、虎徹は先日の新オーナーとのやり取りを思い出していた。
衰え始めたヒーローなどいらないと、あの男は言った。
これは紛れもない解雇通告だし、本来ならば早急に今後の身の振り方を考えなければならないところだ。
…だが、しかし。諦めきれない自分はみっともなく足掻いては、今なお現状にしがみついている。

「…この先俺は、いつまでヒーロー続けられんのかね」

ヒーローとして活動している時だけは不安な気持ちも忘れられる。
今の虎徹はただがむしゃらに仕事に打ち込むことで、かろうじて己の矜持を保っていた。

「…何かあったんですか?」
「いや、別に…ふと思っただけだ」
「……」

気遣わしげなバーナビーの視線を避けるように、虎徹はそっと目を閉じた。
自分と違って彼は前途有望な若者だ。
その彼を、こんなくだらない現実に巻き込みたくはない。

そう考えてから虎徹は、―ああ、また同じことの繰り返しだな…と気づいた。

自分にはかつて、心配をかけたくないからと何もかも一人で抱え込み、その挙げ句、目の前の若者を傷つけたという苦い過去がある。
…また自分は、その時と同じ過ちを犯そうとしているのかもしれない、そう思ったのだ。

「虎徹さん」
「ん?」
「僕は、たとえあなたがヒーローでなくても、僕にとってあなたは必要な存在だと思ってます」
「…なんだよ、急に」
「あなたがヒーローに依存してるって言うのなら、僕はきっと…虎徹さん、あなたに依存してるんでしょうね」

冗談めかして言ったつもりだろうが、虎徹にはそれが彼の本音だとすぐに分かった。
それだけの年月、ずっとそばにいたのだから嘘も本気も互いにすべてお見通しだ。

「ばーか。俺みたいなオジサンに依存してどーすんだよ」

ならば、この強がりも多分、バーナビーにはバレバレなのだろう。

「…けど、ありがとな。バニー」
「いえ…」

強引に詮索しなくなった彼は、昔と比べてずいぶん大人になった。
いつか…、気持ちの整理がついたらすべてを彼に話そう。
そう決意して、虎徹は胸の上で静かに手を組む。

神様なんて信じたことはないけれど…。


―願わくばもう少しだけ、彼の隣でヒーローでいさせて下さい。


この先、確実に訪れるであろう別離を前に、今はただ祈ることしかできない虎徹だった。






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