短編2

□僕ができること
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 「僕ができること」名前編





虎徹さんと二部リーグに復帰してからのこと。
顔バレのせいか、街中での活動中にあの人も「こてつ!」「こてつ〜!」などと名前を呼ばれることが多くなった。
いちいち目くじらを立てても仕方ないと思いつつ、僕としては内心面白くない。

その日も窃盗犯を追いかけていた虎徹さんに向かって多数の声掛けがあったもんだから、僕は朝から少々不機嫌だった。

「ずいぶんと人気者になりましたね」

なんて、対する口調もついつい険を含んだものになる。

「何だよ、また焼きもちか?」

空気を察して彼が笑った。

「別に、そんなんじゃありません」

…ほんとは図星なんだけど。

分かってる。本当は僕だって分かってるんだ。
僕にとってあなたが特別な存在であるように、あなたにとっても僕が特別だということは。

不意に「じゃあさ」と何でもないことのように虎徹さんが軽く口火を切った。

「また『おじさん』って呼んでもいいぞ」
「え?」
「だってほら、俺のこと『おじさん』なんて言うの、お前くらいだからさ」

本当に何でもないことのように笑ってあなたが言うから。

「今さらですか?」

僕は軽く吹き出し、苦笑した。
あなたを名前で呼べるようになるまでどれだけ僕が悩み、苦しんだと思ってるんだ。このおじさんは。

「でも、いいですね」

悔しいからそんな思いはおくびにも出さず

「じゃあ、さっそく」

と、意趣返しに僕もその案に乗っかることにした。

「行きますよ!おじさん!」
「んー、なんかちょっとムカつく」

考え込むように立ち止まった虎徹さんを置いて、僕は先に行く。

「あっ、おい待てよ!バニー!」

追いかけてくる賑やかな足音を聞きながら、僕の気持ちはちょっぴり晴れやかになった。


―少し意地悪だったかもしれないけれど、これだって僕の立派な愛情表現なんですからね。





END

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