お仕置きシリーズ

□お仕置きタイム2(前)
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「王様だーれだ?」

広々とした空間に男達の楽しげな声が響く。
いつものようにファイヤーエンブレムが経営するバーに集まったヒーローが、それぞれくじ引きのように細い棒を取り合った。
その面子はファイヤーエンブレム、ロックバイソン、スカイハイ、そしてバーナビーと虎徹のコンビという大人組だ。
バーナビー以外のメンバーは以前から親睦会と称して飲みに行くことがあったのだが、そこにバーナビーが加わったため、最近ではもっぱらファイヤーエンブレムのバーが彼らの御用達となっている。
オーナー業の傍ら、趣味でやっているというこの店の奥にあるVIPルームは商談にも使われるらしく、防音設備が完璧で少々羽目を外しても問題ない点も彼らは気に入っていた。

「あら、アタシが王様みたいね」

部屋の中央に配置されたテーブルを囲むように置かれたソファのそこかしこから、ため息が漏れる。
ちなみに、全員かなりの量のアルコールを摂取しており、室内は異様な熱気に包まれていた。

「じゃあ…」

と悪戯っぽく笑ったファイヤーエンブレムが彼らの顔を見回した。

「2番が3番にキスをすること!」

ブッと誰かが飲み物を吹き出す。
慌てて自分の番号を確認し皆が安堵の表情を浮かべる中、虎徹はガックリと肩を落とした。

「虎徹さん?まさか…」
「…そのまさかだよ」

『3』と書かれた棒を見せられたバーナビーの頬が引きつる。

「じゃ、2番は…」
「すまない、ワイルド君。どうやら私が2番のようだ」

そして、爽やかに立ち上がったスカイハイの手には『2』と書かれた棒が握られていた。

「いや〜ん!キング・オブ・ヒーローの口付けなんてうらやましいわねぇ」
「おいおい!マジでやんのかよ!」

盛り上がる外野をよそに、バーナビーの機嫌は急降下し始めた。


「…ほんとにやんなきゃダメか?」
「何よぉ、往生際が悪いわね。王様の命令は絶対なのよ」

ファイヤーエンブレムに促されたスカイハイが笑顔のまま、ゆっくりと虎徹に近づいてくる。

「覚悟はいいかい?ワイルド君」
「なあ、スカイハイ、別に唇でなくても…」

そう言いかけた虎徹の腰に手が回され

「んんッ!」

逃げる間もなく、虎徹の唇はスカイハイのそれに塞がれていた。
見物している野次馬からおおっ!とどよめきが上がる中、バーナビーの目がスーッと細められる。

「…ん、んう…」

スカイハイの舌がねじ込まれ、虎徹の舌と絡み合う。
爽やかな外見とは似つかわしくないねっとりとした熱い口付けは、次第に虎徹を翻弄し始めた。

「ふ…んん…」

目の前の淫靡な光景に、フレンチキスのような可愛いものを想像し、からかおうと考えていたファイヤーエンブレムでさえ、呆気にとられる。
甘い息が漏れ、その頬が赤く染まる頃、虎徹はようやくうっすらと膜の張った琥珀の瞳でバーナビーに助けを求めた。

「はーい!そこまで!」

助け舟を出したのは王様のファイヤーエンブレムだった。

「…んあ、ハアハア…」

やっと熱いキスから解放された虎徹が放心したように荒い息を吐く。

「ありがとう、ワイルド君!ごちそうさま!」

邪気のない顔で笑うスカイハイをファイヤーエンブレムが小突いた。

「アンタって、意外と情熱的なのね」
「は?」
「別にキスって言っても、ほっぺとか額とかでもよかったのよ」
「ああ、なるほど。それは思いつかなかった」
「さすがはキングね。相変わらずの空気の読めなさっぷりだわ」
「…だな」

ロックバイソンとファイヤーエンブレムの二人に苦笑されて、思わずスカイハイは彼らを交互に見やる。

「あの、私は何かまずいことを?」


小首を傾げるスカイハイの視界にバーナビーが虎徹に何やら話し掛けているのが見えた。

「もっと空気の読めないのがアソコにいるけど」

バーナビーの囁きに虎徹の顔が見る見るうちに青褪める。
可哀想に、と呟いたファイヤーエンブレムに向かってバーナビーは眼鏡の縁を上げながら「急用が出来たんで失礼します」と告げ、頭を下げた。
そして、嫌がる虎徹の腕を掴むと引きずるようにして部屋を出て行ってしまった。
その間、わずかに一分ほど。

「タイガー、無事だといいけど」
「…だな」

気遣わしげな視線で見送った二人の間でスカイハイがオロオロと戸惑う。

「バーナビー君、怒っていたようだが、私が原因なんだろうか?」

スカイハイの言葉にファイヤーエンブレムとロックバイソンは顔を見合わせて、苦笑した。

「気にしなくてもいいのよ。ヤキモチなんて犬も食わないんだから」
「それを言うなら、夫婦喧嘩だろ」
「え?ええっ!?彼らはいつから夫婦になったんだい?」

スカイハイの天然っぷりにひとしきり爆笑した二人は飲み直そうと、再びグラスの酒をあおり始めた。




その頃、バーナビーはタクシーを捕まえ、帰路を急いでいた。

「分かってますよね」
「……」
「帰ったら…」

『お仕置きですよ』

さっき店で言われたセリフが蘇り、虎徹はぶるりと身体を震わせた。









※すいません。後編に続きます。



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