長編3

□夜の闇に抱かれて(R)後日談
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ここはアポロンメディア社ヒーロー事業部のオフィス内。
パソコン画面を睨みつけながら、カタカタとキーボードを打ち続けていた虎徹の指がようやく動きを止めた。

「よっしゃー!終わった!」

両手を高く上げ、そのままうーんと伸びをする。
凝り固まった両肩をもみほぐし、首を前後左右に動かせば鉛のように重かった体が少しは軽くなった。

「あーもう、外真っ暗じゃねーか。って、わっ、こんな時間…」

確か、今日はバーナビーの自宅にお呼ばれしていたような…。
そこまで思い出し、腕時計で時刻を再確認した虎徹はため息とともに天を仰いだ。

「…あいつ、待ちくたびれて怒ってんだろうなあ」

『溜まっている賠償金関係の処理を今日中に済ませるように』というロイズからのお達しを受け、今の今までパソコンと向き合っていた虎徹だったが。

「…とっとと帰りてーよ」

己の日頃の怠慢をよそに、ふてくされる彼に反省の色はない。
この場にバーナビーがいればきっと「自業自得です」と冷たくあしらわれたことだろう。

全ての入力作業を終え、データ保存後パソコンをシャットアウトしていると、不意にオフィス入口からコンコン、と音がした。
振り返った虎徹の目に意外な人物の姿が映る。

「バニー、お前どうして…」
「…あなたの帰りがあんまり遅いんで、迎えに来ました」

視線の先には不機嫌極まりない顔をしたバーナビーがドアに寄りかかって立っていた。

…やっぱ、怒ってるよな。

「悪りぃ、残業が長引いちまって」

右手を顔の前でかざし、素直に謝罪する虎徹のもとへと歩み寄った彼は手に持っていたコンビニ袋を黙って差し出した。

「…なんだ、これ?」

てっきり嫌みの一つでも言われるかと覚悟していた虎徹は拍子抜けしながら、袋の中をのぞき込む。

「もちろん、自業自得だとは思ってますけど…」
「あはは…やっぱり?」
「差し入れです」

中から出てきたのは…。

「これって…」
「『オリエンタルライス』って言うんですね」
「うん、こっちではな」
「お腹も空いてるだろうし、それに…あなたが好きかと思って」

三角形の形に握られたご飯に海苔が巻かれただけのシンプルな握り飯が三つ。
それぞれを見比べた虎徹は頬を緩ませ、笑顔を見せた。

「俺の田舎じゃ、これ『おにぎり』って言うんだ」
「おにぎり?」
「ああ、そうだ」

ありがとな、と礼を言いながら一つ目のおにぎりにかぶりつく虎徹をバーナビーは穏やかに見つめている。

「ん、お前もどうだ?」
「僕はもうとっくに夕食済ませましたから」
「…そっか、付き合えなくて悪かったな」
「いえ…」
「でもこれ、うまいわ。梅におかかに鮭と、チョイスも抜群だし」
「なら、よかったです」

満足げに微笑むバーナビーを見てふと頬が熱くなった。
まったく、あのツンはどこに行ってしまったんだと思うほどの彼の変わりように、時々ついていけないことがある。
例えばそう、今の状況がまさにそれだ。
恥ずかしさをごまかすように、虎徹は慌てておにぎりを口一杯に頬張った。

「…ごちそうさん!あー、うまかった」

全て食べ終え、ひと心地ついている虎徹に向かって、今度はバーナビーがニッコリと笑いかける。

「満足しました?」
「もちろん。ありがとな、バニー」
「じゃあ、次は僕があなたを美味しく頂く番ですね」
「へっ?」
「誰もいない夜の職場でオフィスラブ…なんか、興奮しません?」

言いながら、妖しく目を細めたバーナビーがにじり寄ってくる。

「…お前、何考えてる?」
「何度掛けても携帯はつながらないし…」

慌てて尻ポケットから出したそれは確かに電池が切れていた。
一言遅くなると彼に連絡を入れればよかったのに、そうしなかった自分が全面的に悪いのだから責められても仕方ない。
今回ばかりは言い訳の余地すらなくて、虎徹はただ小さくなるしかなかった。

「僕がどれだけ心配したか分かります?」
「…ほんと、ごめん」
「散々僕を待たせた挙げ句、不安にさせた罰です」

そう言われれば返す言葉もなく、仕方なく虎徹はバーナビーの命に黙って従った。



    ***



「…んッ…ぁ…」

デスク備え付けのイスに座ったバーナビーを跨ぐような体勢で、虎徹は彼のモノを受け入れている。
不安定に揺れるイスの動きは不規則な振動を生み出し、喘ぐ虎徹をさらに責め立てる。

「…ッ、くぅ…」

正面からその反応を楽しむバーナビーはそっと鎖骨の辺りにキスを落とした。
小さく首を振る虎徹の乳首に吸い付けば、途端に後ろがキュッとバーナビーを締めつける。

「今、軽くイキました?あなたのココ、締まりましたけど…」
「くっ…そ、やめ…」

ペニスを銜え込んでいるアナルの縁を指先でなぞっただけで、いきり立った虎徹自身もビクビクと震える。

「はぁ…ッあ…もぅ…」
「もう、何です?」
「…じらすな、ッつってんだ…よッ…」

お望み通りに、と腰の動きを速めたバーナビーの耳にふと足音が聞こえてきた。
コツコツと響くその足音はだんだんこちらへと近づいてくる。

―恐らくは見回りの警備員か…。

「虎徹さん、声を抑えて」
「な…に?」
「見回りみたいです」
「…ん、く…むり…だッ…て」
「…しょうがないな」

涙目で睨んでくる虎徹の背を抱き寄せ、バーナビーは己の唇で喘ぎを漏らす彼の唇を塞いだ。

「ン、ンンッ…」

くぐもった悲鳴ごと、舌を絡め取る。
一際激しく震えた体がゆっくりと弛緩してゆく様に、バーナビーは虎徹が絶頂を迎えたことを知った。

やがて、足音が部屋の前を通り過ぎ、次第に遠ざかってゆく。
気配が消えたのを確認したバーナビーは再び動きを再開した。

「…ッ!う…んんッ」

イったばかりの体に与えられる快感は凄まじく、逃れようと虎徹が激しく身を捩る。

「…っあ、バニー…ッやめ…ぁあッ」

恥も外聞もなく泣き出した虎徹をさらに高みへと追い上げるべく、バーナビーは突き上げを開始する。
虎徹はただただ、なす術もなく彼の動きに翻弄され続けた。



    ***



「…もうしねーからな」

己の中からペニスを抜き出し、後始末を始めたバーナビーに対して虎徹が言い放つ。

「はいはい。それより、シャワー浴びて…今日は仮眠室にでも泊まります?」
「…お前、枕変わったら寝れねーんじゃなかったっけか?」
「そんなこと、言いましたっけ?」
「……。とにかく!もうしねーからな!」
「保証はできませんけどね…」

使用済みのコンドームの口を縛り、ティッシュで包むとコンビニ袋に放り込む。

「もし僕があなたを襲ったら、とりあえず叩き起こしてくれてかまいませんから」
「…よし、分かった」

のんびりとした口調で告げられた虎徹が頭の中で「そん時は能力発動したっていいってことだよな」などと、物騒なことを考えているとは…。

想像もできないほど、今バーナビーは幸せだった。






 END


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