長編3

□STEP BY STEP
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ある日突然現れたバーナビーの第二のNEXT能力は、依然消えずに残っていた。
雑音のように聞こえてくる他人の心の声は確かに煩わしかったが、慣れてしまえばそうでもない。
とにかく目を合わさなければ聞こえてはこないのだから、うまく使いこなせば仕事面でもプラスになる。
最近のバーナビーは半ば諦めの心境で、そう割り切っていた。



     ***



ここはアポロンメディア社のヒーロー事業部オフィス内。
カタカタカタ…と不規則に聞こえていたタイピングの音の間隔が次第に間延びしていく。
そのうちとうとう音は聞こえなくなり、代わりに大きなため息が静まり返った空間に響き渡った。

「んーっ!」

次に伸びをする呻き声とイスの軋む音が聞こえてきて、その時点で我慢できずにバーナビーは横を向いた。

「あの、虎徹さん」
「…なんだよ」
「真面目に仕事してもらえませんか?」
「やってんだろーが。今はちょっと休憩中」
「お言葉ですが、これで休憩は朝からもう五回目です。あなたはここに仕事をしに来てるんですか?それとも休憩しに来てるんですか?」
「……」
「第一、あなたが休憩するたびに僕に話しかけてくるんで、気が散ってしょうがない。…って、聞いてます?」
「…聞こえてるよ」

肩を竦めた虎徹がぶっきらぼうに言い放ち、バーナビーを見る。
途端にその心の声が彼の頭の中に直接響いてきた。

『あーあ、またお説教かよ。ったくバニーちゃん、相変わらずツンケンしちゃってほんとに俺のこと好きなのかねぇ…』

瞬間、バーナビーの頭に血が上った。
ガタンと乱暴に立ち上がった彼の姿に虎徹も驚く。

「…ちょっと外の空気吸ってきます」

珍しく険悪な雰囲気のバーナビーに口をはさめず、経理の女史も黙って頷いた。
しばらくして「あっ」と声を上げた虎徹はようやく己のミスに気づく。

(心を読まれたのか…)

とすれば、バーナビーが怒るのも無理はない。

「あのー、」
「なにかしら?」
「あいつ気になるんで、ちょっと様子見てきていいッスか?」

フーッと目を閉じ、ため息一つ。

「手短にね」

苦い笑みで掛けられた声を背に、虎徹はオフィスを飛び出した。





つづく

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