長編3

□たとえ君が思い出になっても
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マーベリック事件の後、怪我の治療で入院中の虎徹を見舞うため病院を訪れたバーナビーは、彼の口から告げられた内容に息を飲んだ。

「マーベリックが死んだ?」
「ああ。護送中にルナティックに襲われたそうだ」
「そう、ですか…」
「お前、知らなかったのか?」
「…あの日以来ずっと部屋にこもりっきりで、テレビやインターネットの類も見ていなかったので」
「そうか…」

顔色も悪く、憔悴しきった様子のバーナビーを前に、虎徹もそれ以上は何も言えずにただ黙り込んだ。




ヒーロー業界のみならず、シュテルンビルトの街をも巻き込んだマーベリック事件は彼の逮捕により、先日幕を閉じた。
そして、両親殺害の犯人である彼の逮捕により、バーナビーの復讐劇も終わりを告げていた。
苦しみの末、ようやく手に入れた安息の日々…もう気持ちの整理はついたはずなのに。
いまだ名前を聞くだけでざわつく己の心に、バーナビーは厳しい表情を浮かべる。
今までずっと操られていたのだと真実を知った時、激しい怒りや憎しみの感情を抱いたことは確かだ。
だが、こうして実際に死んだと聞かされれば何とも言えない複雑な心境になる。
それほどまでにマーベリックの存在はバーナビーの人生に多大な影響を及ぼしているのだ。

「大丈夫か?バニー」
「…ええ、僕なら大丈夫です」

心配そうに見つめる虎徹を安心させようとバーナビーは微笑む。
気丈に振る舞うバーナビーに虎徹もまた、何とも言えない気持ちになっていた。




―しかし、バーナビーがマーベリックの死を知らされて、しばらく経ってからのこと。
張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。
今まで信じていた人間に騙され、裏切られていたという事実に深く傷ついたバーナビーの心は再び閉ざされようとしていた。
そのことに真っ先に気づいたのは虎徹だった。
傷が癒え、退院した彼はそんなバーナビーをずっと支え続けた。
共にヒーローを引退した後も、彼はオリエンタルタウンからバーナビーの自宅を訪ねては何かと世話を焼き続け、独りぼっちになり、自分自身の存在意義さえ見失いかけていたバーナビーを必死に現世に繋ぎ止めようとした。
やがて虎徹の努力の甲斐もあり、ぽっかりと開いていたバーナビーの心の空洞は次第に小さくなっていった。
虎徹への信頼がいつしか愛情へと変わってゆくほどに…。

「あなたが好きです」

生まれて初めての恋愛感情に戸惑いながらも、バーナビーはまっすぐに虎徹に思いをぶつけた。
最初のうちはのらりくらりとはぐらかしていた虎徹も否応なく、己自身の気持ちに向き合うこととなり…。

「俺も好きだ」

やがては虎徹も自分の中に生まれた感情の正体を偽れなくなる。
そうして二人は、いつしか互いをかけがえのない存在として認め合い、愛し合うようになっていった。



バーナビーにとっては両親を失ってから初めて味わう満ち足りた日々。
だが、ほどなく虎徹はヒーローとしての道を再び歩き出す。

「あなたが復帰する以上、僕も戻るしかないですね」
「何でだよ」
「だって、僕はあなたの相棒ですから」

そして、バーナビーもまた、後を追うようにヒーロー界への復帰を決めたのだった。





 つづく
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