長編3

□僕が僕であるために、君は君であればいい
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「もう少し愛想良く出来ないんですか?オジサン」

自分の隣に並び、にこやかに握手を続ける同僚の若者から飛んできた辛辣な声に、虎徹は頬をひきつらせながらも無理やり笑みを浮かべた。
二人の前で列を作り、順番を待つファンの大半はどうせバーナビー目当てなのだ。

「お前さんと違って、俺はこういうの慣れてないんだよ」

潜めた声でそう返せば、バーナビーは呆れたように小さく肩を竦めた。


先日シュテルンメダイユ地区に新たな名所としてフォートレスタワービルが完成した。
ビル1階のエントランスには初代ヒーローのレジェンド像が飾られ、訪れた人々を見守っている。
そんな平和のシンボルとして建てられたビルの宣伝にと駆り出されたのがアポロンメディア社のニューヒーローコンビ、タイガー&バーナビーだった。
ビルの宣伝と自分たちのお披露目を兼ねたPRのため、ここで現在二人は握手会を行っている。

(こんなのヒーローの仕事じゃねえよな…)

トップマグから移籍し、バーナビーとコンビを組まされてからというもの、ファンサービスやマスコミへの露出は増える一方だ。
もちろん虎徹とて長くこの世界でやってきた分、そういったアピールも必要であることは理解している。
だが理解はしていても、どちらかと言えば現場一筋でやってきた虎徹の胸中に複雑な思いがあるのも事実だ。
帰りたいと思う気持ちをぐっと堪えて、虎徹はファンから差し出された右手を慣れない笑顔で握り返した。

「ファンサービスも仕事のうちですよ」
「…分かってるって」
「現場で活躍するだけがヒーローじゃありませんから」

くすぶる違和感を飲み込み愛想笑いを続けていた虎徹だったが、さすがに今のバーナビーの一言にはカチンときた。

「おま、それは違うだろ!」

抑えきれずについ、低い怒声が口をついて出る。
その声に驚いたのか、目の前に立っていた若い女性ファンが伸ばしかけていた手を引っ込めた。

「…ワイルドタイガー」

すかさず二人の側に控えていた上司からたしなめる声が飛ぶ。
感情を押し殺した声は彼らにしか聞こえない程度の微かなものだ。
それでもヒーロー名を呼ばれたことで、虎徹はすぐに冷静さを取り戻した。

「すいません…」

苦笑いで頭を掻きながら右手を差し出す。
恐る恐るといった風に伸ばされた手を、虎徹は優しく握り返した。






つづく

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