長編

□しらじらと明けていく夜2
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動揺を隠すように虎徹は慣れない無表情を取り繕う。

「元気そうで何よりだ」
「あなたの方こそ、もう俺のことなんかとっくに忘れちまったと思ってましたよ」

それは事実だった。
この男の顔を見ていると、消し去りたい過去の記憶が鮮やかに蘇る。
ここ何年か男からの接触は途絶えており、全て闇に葬り去られたとばかり思っていたのに。

「しばらく体調を崩して静養していてね。会社も部下に任せていたんだ」

男は饒舌に近況を語ると硬い表情を崩さない虎徹にワインを勧めた。
虎徹が黙って首を振り、拒絶の意志を伝えると苦笑して肩を竦める。

「その間に君の会社のヒーロー部門が撤退して、君はアポロンメディア社に移ったと言うじゃないか。本当に驚いたよ」
「…俺自身、急な話で驚きました」
「いったいどんな手を使ったんだい?」
「…っ、」

下品な口調で尋ねられ、虎徹は思わずギリと唇を噛んだ。

「意外だったな。あのマーベリックにそんな趣味があったなんて」
「違う!」

一瞬、二人に周囲の視線が集まる。
我に返った虎徹は気まずそうに声を落とした。

「今はもう、誰とも寝たりしていない」

場所を変えよう、と言うと男は怒りと屈辱に震える彼の肩を抱いて、テーブルを移動した。






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