長編

□しらじらと明けていく夜4(R)
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携帯電話を握り締めたマートンはチラリと虎徹を見て、その反応を探る。
理性を失い掛けていたはずの虎徹の瞳に正気が戻っているのを確認し、マートンは興味深そうに目を細めた。
懇願するように見つめる彼の瞳が絶望に彩られる様はさぞかし綺麗なのだろう。

ふと思いつき、タッチパネルに触れた途端、虎徹が掠れた悲鳴を上げた。

「や!やめ…やッ!」

少しの間を置いて、電話が繋がった。

『もしもし、おじさん?』

聞こえてきた相棒の声に虎徹の瞳が見開かれる。


(ああ、やはり綺麗だ)


興奮を隠しきれないマートンは動きを止めてしまった部下に行為の再開を促し、自らは電話の応対をする。

「もしもし」

話しかけると、受話器の向こうで相棒の青年が息を飲むのが分かった。

『…あなた、誰です?』

怪訝な声で尋ねられ、目の前の光景に思わず笑い出しそうになる。
彼は何も知らない。
今、ここで、自分の相棒がどんな目に遭っているのかも。


「私はタイガーの古い知人です。先ほどのアポロンメディア社のパーティーでばったり彼に出会ったものですから、少々二人で飲みに…」
『そうだったんですか。急に姿が見えなくなったんで、僕も心配していたんです』
「それは悪いことをした。一声掛けた方がいいのではと、彼にもそう言ったのですが大丈夫だと言われたもので」

当たり障りのない会話を続けている目の前では、下から突き上げられた虎徹が必死に声を噛み殺している。

『で、彼は?伝えたいことがあるので、代わって頂けますか?』
「ああ、ちょっと待って。今、彼は席を外していて」

言いながら虎徹へと視線をやると、彼は泣きそうな表情で首を左右に振った。
こんな状態で電話に出れる訳がないだろうと、その目が訴えていたがマートンは無視して携帯を彼の耳元に突きつける。

「今、タイガーに代わるよ」

無理やり通話を強制され、虎徹はマートンをきつく睨んだ。







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