長編

□しらじらと明けていく夜12
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「あ、あのさ」

気まずそうに口を開いた虎徹にバーナビーはハッと我に返った。

「なんであなたがここにいるんですか、おじさん?」

本来、自宅療養しているはずの虎徹がジャスティスタワーにいること自体おかしい。
いくぶん冷静さを取り戻したバーナビーは、責めるように彼を問い詰める。

「それはその…だな」
「あなたのことだ。どうせ、体がなまるからとか何とか言って、こっそりトレーニングルームに来てたんでしょ?」
「…ご名答です」
「人の気も知らないで…」
「もう、大丈夫だって。つっても、信用ないか…安心しろ。もう帰るから」

何となく、後ろめたい気持ちになった虎徹はバーナビーに背を向け、歩き出した。

「ちょっと、おじさん!待って下さい‥」

話半ばで立ち去ろうとする虎徹の腕をバーナビーが思わず掴む。
瞬間、彼がビクッと体を震わせた。
掴んだ手を通じて小刻みな震えが伝わってきて、バーナビーはかつて自分が彼に何をしたのかを思い出していた。

「‥自宅まで送ります」
「いい。ガキじゃねえんだ。一人で帰れる」
「何もしませんから」

懇願するように言い募るバーナビーに、虎徹はようやく彼の方を振り返った。

「今更こんなこと言っても遅いでしょうけど、あの時はすいませんでした」
「なっ‥」

突然の謝罪に戸惑う虎徹に、バーナビーは言葉を重ねる。

「本当はあんなことするつもりはなかったんです。だって、あなたが何をしようと僕には責める権利なんてなかったのに」
「ちょ、ちょっと待て。責めるって何だよ?」
「あなたが知らない男と…そう思ったら、何だかカッとなってしまって」

言い訳がましいセリフだと自分でも思ったのだろう。
バーナビーはらしくなく俯いてしまった。

「…俺は、お前が俺を嫌ってるからあんなことをしたんだと…」
「違います!」

掴まれた腕に力がこもり、虎徹の顔が苦痛に歪む。

「何か勘違いしてるようなんで言っておきますけど、僕はあなたを嫌いだなんて一言も言ってない」

真剣な眼差しが虎徹を見つめている。
その必死な様子は嘘を言っているようには見えなかった。









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