長編

□POWER OF JUSTICE(前編)
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強くなりたいと願った。
大切なものを守るために、そのために力が欲しいと、生まれて初めて心の底から、そう思った。




目の前で相棒へと振るわれる暴力を歯噛みしながら見つめるバーナビーもまた、全身傷だらけの有り様だった。
油断した訳ではない。
ヒーローとして二人が取った行動は間違ってはいなかった。
ただ、それが卑劣な罠だとは気付かなかっただけのことだ。




数十分程前の話になる。
虎徹とバーナビーがたまたま雑誌の取材を終え、二人で街を歩いている時のことだった。
突然、ビルの片隅から悲鳴が聞こえ、駆けつけてみると彼らの目の前に三人の覆面の男に囲まれ怯える若者の姿があった。
男の手に握られたナイフを見た瞬間、強盗事件だと判断した二人はすぐに臨戦態勢に入る。
若者を人質に取った男達への言葉による説得が無駄だと分かると、後は行動に移すのみ。
能力を発動し、あっという間に事件は解決…のハズだったのだ。

まさか、その人質の若者と男達がグルで最初から事件そのものが仕組まれていたとは、さすがのバーナビーでも見抜けなかった。
助けたはずの彼が逃げ出さなかったために、庇うように飛び出した虎徹を今度は人質に取られ、結局は二人とも男達に捕らえられてしまった。

「そいつは逃がしてやってくれ」

と懇願する虎徹を見て、怯えていたはずの若者が突然、笑い出した。

「ヒーローってのは気の毒だよねえ。市民を守るためには自分の身を犠牲にしなきゃならない」
「お、まえ…」
「いや、バカって言った方がいいかなあ」

とにかく、チョロいもんだと笑う彼らを呆然と見つめる虎徹の横で、バーナビーは己の失態に唇を噛む。

「二人とも付いて来てもらおうか」

銃を突きつけられ、能力の切れた二人は仕方なく男達の命に従い、歩き出した。
男達が近くに停車していた車に二人を押し込むと、すぐに車が発車する。

「変な真似はすんじゃねーぞ」

そう脅しながら彼らはバーナビー達を手錠で後ろ手に拘束し、身動きの取れない状態にしてしまった。

「…目的は何だ?」

静かにバーナビーが問う。
彼らの目的が分からなければ、迂闊な行動は取れない。
ましてや、次の能力発動までにはあと一時間は必要だ。


「別にアンタらに恨みはないが、こっちもビジネスなんでね」

リーダー格の男の答えにバーナビーは一人の男を思い出していた。
もし、自分の想像が正しければ…。
二人とも無事では済むまいと、最悪の事態を予想して彼は険しい目つきで男を睨みつけた。





町外れの倉庫のような建物に連れてこられた彼らは男達に取り囲まれ、たちまち殴る蹴るの暴力を受けた。

「うぁっ、ぐっ!」

後ろ手に拘束されているため、身を守ることの出来ない無防備な体を容赦なく痛めつけられて、虎徹もバーナビーも漏れる苦鳴を必死に噛み殺す。

「おい、もうそのくらいにしとけ。そろそろ撮影会始めるぞ」

リーダーの男がそう声を掛けると、男達は虎徹達から離れて何やら準備を始め出した。

「なあ、ほんとにオッサンの方をヤるのか?俺はできればあっちの若い方がタイプなんだがな」
「悪いが、依頼主はワイルドタイガーをご指名だ」

聞こえてきた男達の会話にバーナビーは奥歯を噛みしめ、眉を寄せた。

「心配は無用だ。ああ見えて彼はさるお方の愛人だった。そっちの具合は俺が保証する」
「ふーん、まあ俺は楽しめりゃそれでいいけどな」
「俺も気持ちよくなれんなら構わねー。ヒーロー犯れるなんて、ンな機会二度とねーだろうしよ」
「しっかし、悪趣味な奴もいるもんだな。ヒーローのハメ撮り映像をご所望なんてよ!」

チラチラと二人を見ながら口々に好き勝手を言う男達にバーナビーの怒りが増す。
虎徹へと視線をやると、話の内容からこの後、自分の身に起きる事柄が予想出来たのだろう。
その顔色は青ざめていた。

「オジサン…」

小声でバーナビーが呼び掛けると、虎徹は動揺を隠すように笑ってみせる。

「大丈夫だ、バニー。何があっても俺は平気だから」

心配すんな、と告げた語尾が少し震えていて、彼の不安な心中が伝わってくる。

「さあ、始めるぞ」

男の言葉を合図に、二人はそれぞれ別々の場所へと引き離された。


抵抗する体を引きずるようにして、近くの柱に荒縄で縛り付けられたバーナビーが側にいたリーダー格の男に問いかける。

「…マートンの差し金か?」
「さあな」

ニヤリと笑みを浮かべた男を見て、バーナビーは全てを悟った。




虎徹を取り囲んだ三人の男達が下品た笑い声を出しながら、1人はビデオカメラを片手に試し撮りを始めている。

「さてと、じゃあオジサン、俺達と楽しもうか」

後ろ手に縛られたままの体を後退りさせて、虎徹が彼らを睨み上げる。

「言っとくが、お前が暴れりゃあっちの相棒が痛い目に合うだけだからな」
「…く…」
「代わりにアイツを可愛がってやってもいいんだぜ」

視線をバーナビーに向ける。
柱に縛られ、身動きの取れない彼の頭には銃口の先が突きつけられていた。
気遣うように向けられた瞳の中に怒りの色を見つけて、たまらず虎徹は視線を外す。

「…好きにしろ。ただし、あいつには手を出すな」
「麗しいコンビ愛ってやつか?」

ゲラゲラと笑いながら伸ばされた男達の手の感触に、虎徹は黙って目を閉じた。








※ハンサムエスケープしたい(汗)一応、「しらじらと〜」の番外編ということでこちらに置きました



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