捧げものと企画文
□love&smile
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※レン丸様より10000hitフリリク「兎虎楓で兎vs楓→虎なお話」
ヒーロー界全体を巻き込んだ衝撃の事件が、黒幕のマーベリック逮捕で幕を閉じてから2週間が経つ。
一時は生命が危ぶまれた虎徹もようやく容体が安定し、一般病棟の個室へと移されていた。
彼自身がヒーローということもあり、ヒーロー仲間の面会も多く、病室は常に賑やかな笑い声が絶えない。
「はい!あーん!」
「…なあ、楓。お父さん、もう自分で食べれるんだけど」
「駄目ですよ、虎徹さん。まだ無理をしちゃ、ほら、あーん‥」
「いや、バニーまで何なの?恥ずかしいから二人とも止めろって!」
ベッドの虎徹を真ん中に挟んで左右から突き出された兎の形をしたリンゴに、虎徹は思わず声を荒げた。
「バーナビーさん、お父さんが恥ずかしがってるし、後は私がやりますから」
「いえ、元はといえば僕のせいで虎徹さんは怪我をした訳ですし、責任を持って僕がお世話させて頂きます」
また始まった…、と虎徹は心の中でそっとため息をついた。
この病室に移ってからというもの、二人は何度もこんなやり取りを繰り返している。
娘の楓は離れていた父親の側にいて世話を焼きたいのだろう。
その気持ちはよく分かる。
問題はバーナビーだ。
何度、これはお前のせいじゃないからと言っても聞く耳を持たず、自分のせいだと言って譲らないのだ。
それにしたって一回り以上も年下の子供と張り合うのはいかがなものか。
確かに虎徹とバーナビーはバディという関係以上の、いわゆる世間一般で言う恋人同士ではあるけれど。
(もう少し、我慢してくれたっていいだろうが)
「そういや、バニー。お前、仕事は?」
「長期休暇をもらいました」
「はああ!?お前、ヒーローが長期休暇って何考えてんだよ!っててて…」
叫んだ拍子に痛んだ腹を押さえた虎徹を支えながら、バーナビーは表情を曇らせる。
「だって、少しでも虎徹さんの側に居たかったから」
ぽつりと呟かれたセリフにギョッとして、思わず楓を見るとこちらもまた驚いた様子でバーナビーを見つめていた。
「虎徹さんの事が心配なんです。だって僕らはこ…」
「わあ!バニー!」
自分の世界に入ってしまったバーナビーが何かを口走る前に、病室のドアがカチャリと開いた。
「やっぱりここね」
顔を覗かせたのはネイサンだった。
「まったく、出動要請出てんのに連絡取れないなんて、キングオブヒーロー失格よ」
「でも、僕は!」
「行ってこいよ」
虎徹の真剣な声音にバーナビーは彼を見る。
「お前が行かなきゃ、代わりに俺が行ってやる」
「…分かりました」
虎徹の表情は真剣だった。
恐らく、バーナビーが行かなければ本気で現場に飛ぶつもりなのだろう。
彼はそういう男だ。
やがて、二人のヒーローが去り、静かになった病室で楓は備え付けの椅子に腰掛けた。
虎徹を見つめ、苦笑する。
「バーナビーさんは本当にお父さんのことが大事なんだね」
「そりゃ、コンビだし、一応相棒だからな」
「ううん、そうじゃなくて…。まあ、いいや」
リンゴを口に頬ばると、楓は少し大人びた表情で笑いかけた。
「ねえ、お父さん」
「ん?」
「お父さんは…楓を置いてったりしないよね?」
何気なく寄越された問いかけは思いがけないものだった。
しかし、ずっと聞きたかったに違いないと虎徹はすぐに気づく。
「約束はできないな」
虎徹の答えに、楓の顔が一瞬暗く沈んだ。
「でも、できる限り傍に居る。それは約束する」
俯いた小さな頭に手を置くと、虎徹は優しく髪を撫でた。
「お母さんに似てきたなあ」
目を細めて呟く虎徹に頭を撫でられながら、楓は静かに肩を震わせるのだった。
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