捧げものと企画文

□2012 バレンタインデー企画
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「あー、つまんねえ」

バーナビーの足元を見やった虎徹が大きく伸びをする。
彼は朝から何度となく同じセリフを繰り返し、天井を見上げてはため息を吐いていた。

「いい加減にして下さい。真面目に仕事する気あるんですか?」

隣りのデスクから見咎めたバーナビーの叱責が飛ぶ。
眼鏡のフレームを持ち上げたバーナビーが眉をひそめるのも無理はない。
ここは彼らのオフィスで、今は真っ昼間なのだから。

「だってよぉ、今日はバレンタインデーだろ。なのにさ」

チラッとバーナビーの足元にあるダンボール箱を見て、また虎徹はため息を吐いた。

「なんでお前ばっか」

ダンボールの中はバーナビー宛にファンから送られてきたチョコの山だ。
しかも、まだ別室にも保管してあるとか言っていたから最終的にどのくらいの量になるのかは見当もつかない。

「あなたとの人気の差ってことでしょう。こればっかりは仕方ありませんよ」
「だっ!ムカつく言い方しやがって」
「あなただってほら、もらったじゃないですか。その机の上の、」
「そいつは経理のおばちゃんの義理チョコじゃねーかよ!」
「…おばちゃんの義理チョコで悪かったわね」
「…や、そういう訳じゃ」

途端に黙り込む二人に彼女はフン、とそっぽを向いた。

「お前のせいでおばちゃん怒らせちまったじゃねーか」
「なんで僕のせいなんです?」

なおも小声で二人がやり合っていると、不意にオフィス入り口のドアが開いてロイズが顔を覗かせた。

「ワイルドタイガー、いや虎徹くん。君に面会だ」
「え?俺に、ですか?」

首を傾げる虎徹の前に、彼の愛娘の楓が姿を現す。

「楓〜!?おまっ、なんで」
「お父さん、元気だった?」

にっこり笑った彼女は軽く会釈をすると、いつも父がお世話になってます!と挨拶を始めた。

「こんにちは、楓ちゃん。久しぶりだけど、すっかり女の子らしくなったね」
「ほんと、お父さんに似合わずいい子ねえ」
「もう、やだあ!」

自分を置いてきぼりにしたまま盛り上がる集団に、虎徹がハッと我に返る。

「つーか、楓、お前また黙って出てきたんじゃないだろうな」
「心配ないよ。ちゃんとここに来ることは言って来たから」
「…ならいいけど」
「だって、今日はさ、バレンタインデーでしょ。仕事復帰したお父さんは帰ってこないし…」
「楓、お前まさか」

照れくさそうに言い淀む娘の姿に、虎徹は期待に胸を膨らませた。

「郵送しようかと悩んだんだけど、やっぱチョコは手渡ししたいから…」
「そ、そうかあ…」
「だから、来ちゃった」
「か、楓〜!」
「受け取ってくれるかな、バーナビー」
「へっ?」

頬を赤らめた楓が虎徹の横を素通りし、バーナビーの前にたたずむ。
目の前に差し出された可愛らしくラッピングされたチョコと呆然と立ち尽くす虎徹とを見比べながら、

「はい、一応がんばって手作りしたの」
「あ…ありがとう」

バーナビーは複雑な心境でそれを受け取ったのだった。











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