捧げものと企画文

□気まぐれロマンティック
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※葭葉さまへ捧げます
9万hitキリリク「兎虎のほのぼのした話」






リンゴーン、リンゴーン!
突然鳴り出した玄関チャイムの音にバーナビーは時計を見た。
時刻はPM11時30分。
あと半時ほどで日付が変わろうとするこんな夜半に訪ねてくる人物など、心当たりは一人しかいない。


「はい、どちら様ですか?」

まさかな…と思いつつも一応、インターホン越しに尋ねてみる。

「バニーちゃん〜いるんならさ、開けてくれよ〜!」

やや呂律の回っていない相棒の声がして、バーナビーはガックリと肩を落とした。

「…オジサン、また酔ってますね?」
「‥酔ってね〜って‥」
「酔っ払いはみんなそう言うんです」

勢いよくインターホンを切るとすかさず、チャイムの音が復活する。

「……」

こんなやり取りをするのも、もう何度目だろう。
いい意味で、昔の何でも一人で抱え込み強がっていた虎徹に比べれば、こんな風に自分を頼って訪ねて来てくれるのは嬉しいのだけれど。
できればアルコールの力を借りずに素面(しらふ)で来てほしい。
そう思うのはバーナビーの我がままだろうか。

「何があったんですか?」

仕方なくドアを開けて中へ迎え入れてやると、虎徹はさっさとリビングに行ってしまった。
勝手知ったる何とやらでそのまま床に座り込んだ虎徹のために、バーナビーは用意していたコップの水を差し出した。

「どうぞ、水です」
「ん‥ワリィな」

部屋に入った途端、殊勝な態度になるのもいつものことだ。

「で、いったいどうしたんですか?」

バーナビーも正面に腰を下ろすと、俯き加減な彼をのぞき込むようにして声をかけた。

「楓がさぁ‥」

正直またかと言いそうになるのをグッと堪え、先を促す。

「楓ちゃんとケンカでもしたんですか?」

いい年をしたオッサンが娘とケンカもあるまいと思うなかれ、彼の場合それがあり得るのだ。

「いや、ケンカじゃねーけどまた怒って口聞いてくんねーんだ」

心底沈んだ声を出す彼は、とてもあのワイルドタイガーと同人物とは思えなくて。

「今度は何をしたんです?」

いつもバーナビーは呆れるよりも甘やかしてしまう。

「んー、楓がさ、あんまりお前のことカッコいいって褒めるからさ」
「はぁ?」
「つい、そんなことねーぞ!あいつにだってカッコ悪いとこあんだぞ!って言っちまったんだ。例えば‥」
「例えば、何です?」
「‥郵便物開ける時、包装紙ビリビリにするとか…。あと、眼鏡拭くのに5分も掛けるんだぜ、とか」
「……」

前言撤回、とばかりにバーナビーはクイッと眼鏡の縁を持ち上げ、目を細めた。
バカバカしい。あまりにもバカバカし過ぎる。

「そしたらさー、楓に『何でお父さんがそんなこと知ってるの?デタラメ言わないで!』って怒られちまってさ…」

それ以来、愛娘は虎徹が話し掛けても口を聞いてくれないそうだ。

「俺、楓に嫌われちまったのかな」

消え入りそうな声でうなだれた虎徹はスン、と鼻を啜っている。
本当にくだらない、バカバカしいとそう思うのに。

「‥そんなこと、ある訳ないでしょう」

つい慰めてしまう自分がいる。
これが惚れた弱みというやつなのか。

「まあ‥僕のせいでもあるようですし、謝罪した方がいいですかね」
「よせよ。お前に謝られたら、俺が余計に惨めになんだろーが‥」

自嘲に歪んだ笑みを浮かべた虎徹は手に持った水を一気に飲み干し、深く息を吐いた。
バーナビーはそんな彼をただ黙って、静かに見守っている。

「バニー?」
「はい?」
「‥どうかしたか?」

不意に黙り込んだバーナビーを不審に思ったのだろう。
今度は虎徹が心配そうにその顔をのぞき込んだ。

「いえ。ちょっとうらやましいなと思って」
「なにが?」
「あなたをそんな風に悩ませたり、振り回したりできる楓ちゃんがですよ」
「あ、」

幼少時に家族を失ったバーナビーの前でするべき話ではなかったと、後悔したのも束の間。
ねえ虎徹さん、と穏やかな海を思わせるエメラルドグリーンの瞳がまっすぐに虎徹を見つめてきた。
そこに真剣な思いがこめられていることに気づき、虎徹もまたまっすぐにバーナビーを見つめ返す。

「僕じゃダメですか?」
「‥え?」
「僕が誰よりもあなたを愛します。そして、あなたの一番の理解者になる。」
「…バニー‥」
「それじゃ、ダメですか?」

数度瞬きを繰り返した虎徹が大きく目を見開く。
息を詰めるバーナビーの目の前で、その口元がゆっくりと笑みを形作った。

「ばーか」

からかうような口調にも嬉しさがにじみ出ている。

「お前はもう、とっくに俺の一番の理解者なんだよ。相棒」

いつも決め台詞を言った後やるように、カッコをつける虎徹を見てクスクスとバーナビーは笑った。

「な、なんだよ。今俺、いいこと言ったろ?」
「あの、虎徹さん。自分で言っといて何照れてるんですか?」
「だっ!照れてねーよ!」
「鏡見ます?顔真っ赤ですけど」
「るせー!これはアレだ、その‥あ、アルコールのせいだ!」

年甲斐もなく、ギャーギャーと必死に言い訳をする虎徹が愛しくてたまらない。

「はいはい、そういうことにしといてあげましょう」
「おい!バニー!」

だが、そういうバーナビーも頬が緩みっぱなしで普段のハンサムが形無しだ。

ああ、重症だな‥と思っているのがお互い様だということに虎徹もバーナビーも気づいてはいない。

なぜなら…。

恋する二人に付ける薬はないのだから。




『明日、二人で楓ちゃんのご機嫌伺いにでも行きましょうか?』
『ああ‥せっかくだけど、そいつは却下だな。明日は』
『明日は、何です?』
『ふ、二人っきりで過ごし‥』
『虎徹さーん!』
『だぁーー!よせ!バニーー!』





おしまい

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