捧げものと企画文
□Hard To Say I'm Sorry
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※リク主様へ捧げます
「ほんとにこっちに逃げたのか?アニエス」
『ええ、中継ヘリが見失ったのはその辺りだから、付近に犯人が潜伏してると見て間違いないわ』
「つーか、この辺って廃工場ばっかだな」
『壊し屋のあなたにお誂え向きね、タイガー』
「‥人聞きの悪い言い方すんなよ」
『とにかく、他のヒーローも周辺を捜索してるから、犯人見つけたらちゃんと連絡すること。番組を盛り上げなきゃいけないんだから単独で突っ走らないでよ。特にタイガー、分かってるわね』
「って俺かよ?」
『返事は?』
「‥へいへい」
途切れた通信相手に向かって虎徹はチッと舌打ちする。
「さっき取り逃がした連続爆弾犯は高性能の小型爆弾を所持してるそうですね」
「‥らしいな」
「下手に動いて爆発の巻き添えになるのは御免です」
「何が言いたい?」
「あなたの言う、勘とやらで無茶するのは止めて下さいね」
「お前まで‥。ったく、俺だって命は惜しいっつーの」
ヒーロースーツ姿のため、隣に立つ若者がどんな表情をしているのかは分からない。
だが、いつになく真剣な口調からは彼らしくない緊張感が漂っていた。
「珍しいな、お前がそんなに慎重になるなんて」
「あなたとコンビを組めば誰だって慎重になりますよ」
行きますよ、とスーツ越しに肩を竦めたバーナビーは目の前の建物へと近づいてゆく。
置いてかれまいと、慌てて虎徹はその後を追いかけた。
「待てよ、バニー」
今にも崩れ落ちそうな廃墟に一歩足を踏み入れ掛けて、バーナビーが立ち止まる。
「バニー?」
「シッ!静かに」
虎徹を手で制した彼は静かに中の様子を伺った。
「人の気配がします」
同じように入り口から顔をのぞかせた虎徹もまた、頷く。
「確かにな」
「どうします?アニエスさんに連絡を入れますか?」
「いや、もう少し様子を見よう。中の奴がまだ犯人と決まった訳じゃない」
言いながらソッと屋内への侵入を果たした二人は、物陰から気配の生じる方向を注視する。
放置された機械類が山積みされた屋内に、犯人らしき男の姿が見え隠れした。
その風貌は先ほど取り逃がした爆弾犯と確かに一致する。
「ビンゴか。よし、俺は犯人見張ってっからお前はアニエスに連絡を‥」そう言いかけた虎徹の言葉を遮るように、いきなりPDAが鳴り出した。
「誰だ!」
場違いな呼び出し音が鳴り響く中、興奮状態の犯人が立ち上がる。
「なんてタイミングだよ」
『ちょっとタイガー、聞こえてる?』
「今取り込み中だ!」
通信を切ると、隣で相棒がため息を吐いていた。
「どうします?まだ能力使えないんですけど」
「‥文句なら俺じゃなく、アニエスに言ってくれ!」
「そこに隠れてる奴ら!出てこい!!さもないとこいつを爆発させるぞ!」
「……」
両手を上げ出て行く二人に向かって犯人の男が爆弾をかざす。
「‥おい、バカな真似はよせ」
「うるせえ!!どうせ逃げらんねーなら、てめーらも道連れにしてやる!」
「だから待てって!」
フェイスマスクを跳ね上げ叫んだ虎徹に男が動きを止めた。
「お前にも家族いるんだろ」
「それがどうした!」
「お前が死んだら悲しむ人だっているんじゃないのか?」
両手を上げたまま、虎徹は落ち着いた声で犯人に語りかけ始める。
この期に及んで説得かとバーナビーは驚いたが能力が戻るまでの時間稼ぎにはなるかもしれない。
「そんなの、てめーには関係ねぇだろ!!」
「関係あるさ!少なくとも俺はまだ死にたくはない」
「‥ヒーローってのはずいぶんと臆病なんだな。死ぬのが恐いのか?」
「そりゃそうさ」
虎徹は当たり前だと言わんばかりに笑って答えた。
「死ぬのが恐くない人間なんているわけねーよ」
「……」
「それに、俺には愛する娘がいる。あいつを残して今死ぬわけにはいかねえんだ」
男の手がやがて静かに下ろされた。
「‥俺にも、子供がいる。まだ小さなガキだ」
苦々しく呟く様子を見て虎徹が男に歩み寄ろうとした時、建物の上空で騒々しいヘリの旋回音が響き始めた。
「クソッ!!」
焦りと動揺から男にわずかな隙が生まれる。
今だ、とばかりに二人は同時に犯人に飛びかかった。
「うわっ、てめーら‥ッ!」
バーナビーが犯人を確保し、虎徹がその手から爆弾を奪おうとする。
が、一瞬早く男の手から爆弾がこぼれ落ちてしまった。
「やべっ!」
「虎徹さん!」
「離れろ!バニー!」
虎徹の叫びに、咄嗟にバーナビーは犯人の男を庇いその場を離れようとする。
ドン、と背中に強い衝撃を感じたが振り返る余裕もなく、彼は激しい爆発による衝撃波に巻き込まれ犯人もろとも吹き飛ばされた。
凄まじい爆風に建物は半ば崩壊し、もろく崩れ去る。
「う‥ッ‥」
やがて舞い散っていた粉塵が収まるとバーナビーは床に伏せていた顔を上げた。
ゆっくりと手足を動かしてみる。
少し耳鳴りはするものの、どこにもケガはないようだ。
横に倒れている犯人もまた、気を失ってはいたが命に別状はなさそうだった。
「‥虎徹さん?」
ハッとして慌てて虎徹の姿を探す。
同じく爆発に巻き込まれたはずの虎徹から返答はない。
最後に背中に感じた衝撃を思い出し、バーナビーの背中を冷たい汗が流れ落ちた。
―まさか、あの人僕らを庇って‥。
「虎徹さん!どこです?返事をして下さい!」
絶叫するバーナビーの耳にカラカラという小さな音が聞こえる。
「虎徹さん!?」
音のする方向へ駆け出したバーナビーは崩壊した建物の下敷きになっている虎徹の姿を見つけ、慌てて側に駆け寄った。
「虎徹さん!大丈夫ですか?」
「バニー‥ちゃん、無事だったか。‥犯人は?」
「無事です。それより、今助けますから!」
「俺はいい‥」
「何言ってんですか!」
「いいから、犯人を‥病院へ‥」
「ッ!」
「早く行け‥バーナビー‥」
虎徹の有無を言わさぬ口調にバーナビーは唇を噛み締める。
こんな時だけ愛称を呼ばない彼が憎らしい。
「‥分かりました」
「それでいい‥」
「でも、すぐに戻りますから!」
ハンドレッドパワーが使えない己の無力さを痛感しながら、少しでも早く彼の元へと戻るべくバーナビーは駆け出した。
***
「ん…」
「気がつきましたか?」
「ここは?」
「病院です。あれからあなた、気を失ってたんです」
「そっか…」
「あなたのおかげで無事に犯人確保できましたし、ポイントもゲットできました」
「ならよかった」
「……」
「お前が助けてくれたんだろ。ありがとな」
怪我の治療を終え、ベッドに横たわったままの虎徹が笑顔で話しかけるもバーナビーは黙ったままだ。
「バニー?」
虎徹が目覚めるまでずっと側で付き添っていたのだろう。
バーナビーはまだアンダースーツ姿のままだった。
「‥なんで僕を庇ったんですか?」
重苦しい口調で問われた虎徹が困ったように眉を寄せる。
「なんでって、別に庇った訳じゃねぇんだけど」
「どういう意味です?」
「なんつーか、その体が勝手に動いたっつーか‥まぁ、そう難しく考えんな」
本当に言いたいのはそんなことではないのだけれど、天の邪鬼なバーナビーの口からは憎まれ口しか出てこない。
「なら‥」
「ん?」
「あなたとはやっぱりコンビを組めません」
不安だったのだと、心配したのだと、素直に告げれば真意は伝わるのに。
「自己犠牲で相棒を亡くすなんて、僕は御免ですから」
それができずにバーナビーはわざと冷たく言い放つ。
そっか‥といつになく真面目な顔で応じた虎徹にバーナビーの胸がチクリと痛んだ。
「だったら、やっぱりコンビは解消できねえな。お前が側にいてくれないと、俺は絶対早死にしそうだ」
「…ッ‥」
「だからさ、そうならないようにお前がいつも見張っててくれよ。これでも頼りにしてんだぜ、相棒」
俯いたバーナビーへと虎徹は手を伸ばし、優しくその手を握り締める。
「虎徹さん‥」
素直じゃないのはお互い様だ。
だから二人はコンビを組んでちょうどいいのだと虎徹は思う。
「今俺いいこと言ったろ?」
黙って握り返された手の温もりに、信頼の証を感じる。
仕方がないなと苦笑したバーナビーを見つめる虎徹の瞳はどこまでも温かい。
―今はまだ、その時期ではないけれど。
いつか時が来たら、その時はこの思いを伝えよう。
―あなたが好きです。
今この瞬間、そう心に決めたバーナビーだった。
おわり
※楽しんで頂ければ幸いです。この度はリクエストありがとうございました!
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