捧げものと企画文

□What is Love?(R)
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※藍色ぱんだ様へ捧げます




そろそろ夕飯でも作ろうかとキッチンに向かいかけた俺は、玄関チャイムの音に引き止められた。
宅配か何かだろうか?
深く考えずにドアを開けると

「やあ!」

そこには私服姿のスカイハイが立っていて、俺は驚いた。

「お前、どしたの?」

意外な訪問者は例のごとく、爽やかな笑顔で右手を上げている。

「いいお酒が手に入ったんだ」
「酒?」
「君にと思って」

確かにスカイハイの左手には紙袋があり、中から酒瓶らしきものが顔をのぞかせている。
まあ中に入れよ、と促せば「お邪魔します」なんて律儀に挨拶をして奴はリビングへと向かった。
そして勝手にソファに座ると紙袋の中から一升瓶を取り出し、俺の方へと差し出した。

「越乃寒梅か…そいつを俺に?」
「ああ、こないだ仕事で知り合ったオリエンタルタウン出身のスポンサーさんからいただいてね」
「へぇー。さすがはキング・オブ・ヒーローのスポンサー様だ。気前がいいねぇ」
「よしてくれよ。それに、今のキングはバーナビーくんだ」
「‥わりィ、そうだった」

悪気はなかったと肩を竦めた俺を気にする風もなく、スカイハイは話を続ける。

「で、私はアルコールは飲まないし、同じオリエンタルタウン出身の君なら喜んでくれるかと思って」
「なるほどね」

受け取った一升瓶のラベルをもう一度眺めてみる。
やっぱりいつも俺が飲んでる安酒とは大違いの大吟醸だ。
そりゃあ、嬉しいに決まってる。
だけど、そんなことよりもスカイハイが俺の出身地を覚えていてくれて、こうして自宅までわざわざ届けてくれたこと。
その心遣いの方が俺にはもっと嬉しい。

「ありがとな、スカイハイ」
「ワイルド君の口に合えばいいんだが」
「安心しろ、こいつの味は俺が保証する。ってか兄貴が酒店やっててな、俺も酒には詳しいんだ」
「そうなのかい?」

俺の言葉にスカイハイが驚いた顔をする。
そう言えば、今まであんまりヒーロー仲間とプライベートな話したことなかったっけか‥。

「俺ら、けっこう長いことヒーローやってるけどこういう話はしたことないもんな」
「確かにそうだね」
「よし!じゃあ、今夜は一杯やりながら語り合うか!」
「いや、私はアルコールは‥」
「いいから付き合えよ。とりあえず、夕飯まだだろ?」

そう尋ねるとスカイハイは黙って頷いた。

「チャーハン作ってくるからちょっと待っててくれ」
「あのチャーハンかい?それならご馳走になるよ。君のチャーハンはとても美味しかった、とても!」
「‥そりゃ、どーも」

目を輝かせて力説する奴の姿に何だかくすぐったくなる。
多分、こないだみんなと来た時に振る舞ったチャーハンを褒めてくれてんだろうけど。
こいつってお世辞言える奴じゃないからなあ。
不意打ちで言われると照れんじゃねーか。

「ワイルド君?」
「あ、ああ。悪いけどその辺でくつろいでてくれ」
「そうさせてもらうよ」

うん。こいつといると‥なんか、調子狂うわ。



  ***




冷蔵庫を漁り、材料を揃える。
いざ調理に取りかかろうと俺が包丁を握りしめた時、再び玄関でチャイムの音がした。

「っだ!また来客か?」

俺が作業を中断して玄関に向かい掛けると、スカイハイがそれを遮った。

「私が出よう」
「いいのか?」
「そのくらいお安い御用さ」
「じゃ、悪いけど頼むな」

あいつに任せて作業に戻った俺の耳に玄関のドアが開く音がして

「なぜ、あなたがここにいるんです?」

聞き慣れた相棒の声がした。
詰問口調の声音は普段よりも数段低く冷たくて‥ああ、機嫌の悪い時のバニーの話し方だ。
俺、なんか怒らすことしたっけ?そう反射的に考えてしまった自分がちょっぴり悲しい。

「よく来たね、バーナビーくん!」

そんな相棒の様子に気づくはずもなく、スカイハイは歓迎ムードで第二の訪問者を招き入れている。

「おう、バニーか。よく来たな」
「……お邪魔します」

白々しく話しかけた俺を一瞥して、バニーもまたさっさとリビングへ上がり込んだ。
なんか、刺すような視線が痛いんですけど。
なんで俺がお前にそんな目で見られなきゃいけないんだよ。

「来るんなら連絡くれりゃよかったのに」
「‥黙って来たら何かマズいことでもあるんですか?」
「はあ!?んなこと一言も‥」
「まあまあ、二人ともケンカはよくないぞ。ところで、バーナビーくんは夕飯は食べたのかい?」
「いえ、まだですが」
「ならちょうどよかった。せっかくだから君も一緒にワイルド君のチャーハンをご馳走になろうじゃないか」

そこで再び、バニーがこっちを見た。
…やっぱりこいつ、絶対怒ってる。
原因が俺じゃないことを祈りつつ、俺は黙ってチャーハンの材料を追加した。

「…元キング・オブ・ヒーローのお誘いなら、断るわけにもいきませんね」
「いいお酒が手に入ってね。ワイルド君にと持ってきたんだが君もどうだい?」
「そういうことなら遠慮なく」

おいおい、なんかあそこの空気めっちゃ冷たいんだけど。主にバニーが。
つーか、あいつもわざわざ元キング・オブ・ヒーローなんて「元」を強調する必要なくね?
下ごしらえをしながら聞くともなしに聞こえてくる二人の会話に頭が痛くなってくる。

‥しかし、あのバニーの嫌みを笑って受け流すスカイハイは天然なのか、大物なのか。

「‥あいつら、めんどくせー」

包丁を握る右手に思わず力が入る。
飯食ったらとっとと帰ってもらえばよかったと後悔するのは後の話で。

この時の俺はまだ、己の身に降りかかろうとしている災難に気づいてはいなかった。





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