捧げものと企画文

□僕の恋人が本当に猫になりました
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※はむ様へ捧げます





「ワイルドタイガーは体調不良で休養中。当面、これでいくしかないわね」
「……」
「ハァーー‥」

溜め息と共に睨まれて、小さく肩を竦める。
俺だって好きでこうなったわけじゃない!‥そう叫んだつもりだったが、ニャーというか細い声が空気を震わせただけだった。

「まったく、よりにもよって何でまた猫なのよ!」
「ニャー!(俺が知るかよ)」
「しかも今度は姿まで猫なんて!」

ダン!と床を踏みならすヒールの音に体が自然に飛び上がる。
ああ、俺ほんとに猫なんだなあ。
トレーニングルームの鏡に映る己の姿をまじまじと見つめれば、そこにあるのは茶色の縞模様の美しい毛並み。
自分で言うのもなんだが愛らしいジャパニーズの猫だ。
まあ妙な生き物にされなかっただけ、マシだと思うしかないか‥。

「‥失礼します」

そうこうしている内にバニーちゃんがやってきた。
どうやら事前にアニエスから説明を聞いていたらしく、その表情は暗く険しい。

「あのー、他の人じゃダメなんですか?」

あ、こいつ、俺の世話を拒否しやがった。

「一応、NEXTの攻撃でタイガーが猫になったってのは私とあなたの会社の一部の人しか知らないトップシークレットなの。だから元に戻るまでの世話は相棒のあなたにお願いするわ」
「‥前にも言いましたよね?僕は猫が苦手なんだって」
「あー、だからって私が預かるわけにもいかないでしょ?」
「それはそうですけど‥」

苦虫を噛み潰したような顔でバニーが俺を見る。

「世話をするのに必要な物はすぐにあなたの自宅に届けるから」
「…ッ‥」
「いいわね?」
「…分かりました」

…うん、アニエスには逆らえないもんな。
仕方なく頷いた奴にほんの少しだけ同情する。

「で、どうやって持って帰るんですか?」
「ああ、そこに猫用のキャリーバッグがあるでしょ。そこに入れて連れて帰って」
「じゃあ、アニエスさんお願いします」
「なに?触るのもイヤなの?」

さすがのアニエスも呆れた表情を浮かべたが、そんなの気にするバニーじゃない。
にっこりと爽やかに微笑んで一言。

「上着に猫の毛がつくとイヤなんで」
「あっそ…」

アニエスが肩を竦める。
…前言撤回、俺はアイツに同情なんてしてやらないことに決めた。





暗くて狭いキャリーバッグの中で先のことを考えていると、何だか心細くなってくる。
俺、人間に戻れんのかな…。
やがてバニーの自宅に到着したらしく、ようやくバッグの入り口が開けられ光が差し込む。

「着きましたよ、さあ出て下さい」

あくまでもコイツ、俺に触れないつもりかよ。
ほんっとに猫が苦手なんだな。
バッグから出てうーんと伸びをする。
そして無意識に後ろ足で耳の後ろを掻き始めた時だった。

「ちょっと、やめて下さい!」

いきなりバニーに怒鳴られた。

「毛が飛び散るじゃないですか!」
「ニャー!(んな怒んなくてもいいだろ!)」
「それからあんまりウロウロしないで下さいね。あなたが自由にしていいのはこのリビングだけです」
「ミャー!ミャー!(勝手に決めんなよ!バニーのケチ!)」
「騒いだって何を言ってるのか分かりませんよ」

イライラした口調で目を細められ、俺はシュンとうなだれた。
ただでさえ不安なのに言葉も通じない。
いくら俺が楽天家だって言ってもさすがに落ち込むぞ。
ちょっとくらいは気遣って優しくしてくれたっていいじゃないか。

…あ、ヤバい。今俺泣きそうだ。

仕方なく部屋の隅っこに移動して、その場にうずくまる。
そうしていると何だか気持ちが落ち着いた。
こうして猫になって一日目。
時間はあっという間に過ぎていった。






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